「今日ちょっと、蚕を食べていただく箇所がありまして……」
と台本を指さしたのは、筆者が長年パーソナリティーを務める、ラジオ番組のディレクター氏。廃れつつある業界に新機軸をと、“蚕の味噌漬け”なる商品を開発した養蚕農家のご主人をゲストに迎え、そのお話を伺おうというのが、“蚕を食べる箇所”の概要だった。未来の食糧難を見据え、貴重なタンパク源として期待される昆虫食。話題性も意義も十分で、素晴らしい。にもかかわらず、「えー……またぁ!?」と不満の声が漏れたのは、つい1週間ほど前、虫を食べたばかりだったからである。
舞台は、今年の春から筆者がMCを仰せつかっている、『やまなし調ベラーズ ててて!TV』(山梨放送)の収録現場。ローカルとは言え、正真正銘、夜7時スタートの“ゴールデン”だ。実は、先述のラジオも山梨放送の番組で、(……この人達は俺が一発屋だと知らないのか?)と勘繰ってしまうほどお世話になっている。
その日のテーマは、長野県。もうお分かりだろう……“イナゴの佃煮”である。
本番前の打ち合わせで、郷土食の味見役を言い渡されたのは筆者と、もう一人の番組MC、田中アナウンサー。いや、お笑い芸人が、虫を食べるのは、特段珍しいことでもない。日本で一番昆虫食に慣れ親しんでいる職業と言っても過言ではなかろう。ただし、その名目は「罰ゲーム」である。タガメやゲンゴロー、芋虫と対峙し、「ちょっと、無理無理ー!」とひと暴れしたあと、抵抗むなしく口に押し込まれたら、
「おぇ~!」
とバケツへ一直線。
イナゴも何度か“おいしく”いただいてきたが、人様が大切に守ってきた食文化を罰呼ばわりするなど失礼千万だと、いつしかこの手のネタはテレビで見掛けなくなった。当然筆者も久し振り。「くれぐれも、嫌がらないでください!」と念を押すスタッフに、(じゃあ、やらなきゃいいのに……)と憎まれ口を叩きたくなったが、ふと隣を見ると、ザザ虫担当となった田中アナはまだ食べてもいないのに“苦虫を噛み潰した”ような表情。このあと実際に虫を噛み潰しても、その顔は一切出来ぬのだから、まあ、理不尽である。
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source : 文藝春秋 2021年12月号