人間と動物、その儚い関係を綴る
私は猫派である。猫が主人で、私は下僕。猫が好き放題にしていてくれれば、私も気が楽だ。だが犬との関係は楽ではない。けなげな目でひたと見つめられ、全身で無償の忠義を示されたら、どうしていいかわからない。犬の一途な魂にみあうほどの器量を、たいていの人間は持っていない。ああ、犬は切ない。
著者は1972年生まれ。4歳の時に、大阪の公営団地から奈良の新興住宅地に移り、そこで犬や、そのほかの生き物たちとの生活が始まった。「全身を毛や羽で覆われた温かで小さな生命たち」と過ごした日々を綴ったのが本書である。
最初の犬はボビー。居間の掃き出し窓の外から、いつも家の中を眺めていた。昭和の犬は、かなり雑に扱われていて、ボビーのような中型犬を室内飼いするなど論外だった。それでもボビーはときどき器用に窓を開け、家の中に入ってきた。厳格な父がいない時だけ、つながれている鎖の伸びるところまでだったが。
小学生になった著者は、セキセイインコのアー坊、ハムスターのハムちゃんなど、さまざまな小動物の飼育に熱中する。巣から落ちたドバトのヒナを拾って、全くの自己流で訓練し、レース鳩に育てるという無茶な野望を抱いたりもした。小動物の生命は儚い。著者は彼らが息絶えるたびに泣きじゃくり、ティッシュペーパーに包んで、庭の百日紅の下に埋めた。
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source : 文藝春秋 文藝春秋2021年12月号