菅豊「鷹将軍と鶴の味噌汁 江戸の鳥の美食学」

文春BOOK倶楽部

片山 杜秀 慶應義塾大学教授
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日本人の“鳥肉食文化”の小百科全書

 能に『善知鳥』なる演目がある。ウトウと読む。鳥の名という。シテは奥州の外ヶ浜の猟師の亡霊。「善知鳥を獲り続けた罪で、あの世で自分は雉にされ、善知鳥の化けた鷹に狩られている」と語り、地獄の責め苦を見せる。『善知鳥』の物語は文楽や歌舞伎の『奥州安達原』にも応用されている。善知鳥文治という侍が、禁制の鶴を密猟し、酷い目に遭う。

 どちらも、殺生を悪とする仏教のおしえを踏まえた、鳥を巡る因果応報譚だろう。そんな物語が、能なら室町時代、文楽や歌舞伎なら江戸時代に作られ、上演され続ける。なぜだろうか。殺生を怖れず、鳥を捕って売って買って食べている人々がいるせいだ。だから、アンチテーゼとしての『善知鳥』のような芸能も貴賤群集の関心を呼ぶのである。

 そう、日本人は魚食一辺倒だったのではない。牛や豚を長いことあまり食べなかったのは本当だが、鳥肉はいつも日本の食卓に在った。本書はそんな日本人の“鳥肉食文化”の小百科全書である。鎌倉、室町、江戸。各時代の鳥料理の多彩なレシピまで載っている。池波正太郎もビックリだ。江戸時代の日本橋魚河岸には鳥市場もあった。「かすむ日や目を縫はれたる雁が鳴く」。小林一茶の句である。江戸の鳥問屋では、売り物の鳥が逃げないように、目を縫い閉じていたという。一茶は鳥に同情している。そこまでしても人は鳥を食べたい。18世紀の上方の料理本には、食材となる鳥が91種類も載る。“鳥肉食文化”は奥深い。

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source : 文藝春秋 2021年12月号

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