コロナ禍により、企業における顧客とのコミュニケーションやマーケティングのあり方が大きく変化してきている。対面でサービスや商品の魅力を伝える機会が減る中、デジタルで分かりやすく、ダイレクトに、そしてタイムリーに伝えることが求められている。
こうした変化を成長機会と捉え、アプリや動画などのデジタルツールを活用してBtoBコミュニケーションの高度化を図り、業界特有の商習慣にイノベーションを起こす企業も出てきている。本カンファレンスは、業界ごとのコミュニケーションの変化やマーケティングの進化について、キーマンに登壇いただき、商品の魅力やサービスの価値の伝え方、新規受注・継続発注へとつなげるコミュニケーションの極意を学ぶ機会として企画された。
第1回は「住宅設備・インテリア・エクステリア業界編」。『LIXIL・リンナイの実践者が語る、伝える「仕組み」伝わる「仕掛け」づくりの舞台裏』と題し、未来を見据えたコミュニケーションの仕組みづくり、マーケティングの仕掛けづくりの必要性をテーマに、オンラインで10月27日に開催された。
◆基調講演
BtoBtoCモデルにおけるブランディング&マーケティングの可能性
~ LIXILのマーケティングコミュニケーションの実践事例 ~
事業構想大学院 教授
株式会社LIXIL マーケティングナレッジ開発担当リーダー
野口 恭平 氏(写真右)
株式会社ヤプリ
マーケティング本部
高橋 知久氏(写真左)
野口氏は日産自動車に入社後、宣伝部長、グローバルマーケティング部長として日、米、欧などのマーケティングコミュニケーション戦略を統括。その後グローバルブランドコミュニケーション&CSR部長、IP(知財/ライセンス)プロモーション部長などを歴任。2014年よりLIXIL 執行役員 グローバルマーケット戦略統括部長、その後マーケティング統括部長を経て現職。2012年より事業構想大学院教授に就任(専門はブランド&グローバル)している。
野口氏がマーケティングを担当するLIXILのパーパス(存在意義)は「世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まいの実現=いつもを、幸せに。」。緊急性が高く、同社の専門性を生かして事業活動を通じて貢献できる以下の3つの優先項目を重点取り組み分野として設定している。
・グローバルな衛生課題の解決(すべての人に衛生を)
・水の保全と環境保護(CO2ゼロと循環型の暮らしを)
・多様性の尊重(すべての人に働きがいを、すべての人によい製品を)
住宅における省エネ(断熱性能)の重要性、断熱性能を高めるには、窓・ドアといった開口部への対策が重要であること、顧客志向を中心にした改革を推進していることを紹介し、
・エンドユーザーのニーズを満たす体験を提供し続けることで、顧客生涯価値(ライフタイムバリュー)を最大化する
・最高の顧客体験を提供する暮らしのパートナーである
以上2点の大切さを強調し、その結果ブランド価値の向上も実現する、と説いた。
同社は潜在顧客層とのタッチポイント改革(女性誌活用)や、SDGs(持続可能な開発目標)アンバサダーの起用(元サッカー選手・内田篤人氏)によって企業の社会価値を高めることに取り組んでもいる。
「オンラインショールーム」も昨年から開設。時間・地理的制約がないことが、大きなユーザーメリットになっている。エンドユーザーはもちろん、ビジネスパートナーである工務店、リフォーム店の店頭やショールームからの利用もでき、顧客の利便性が高まった。2021年7月までに2万5000組の利用があり、顧客満足度も93%と高い(同社調べ)。オンラインの良さとリアルの良さを、最適なタイミングで最適な組み合わせで利用することが肝要、と語った。
オンライン学習プラットフォームも整備し、新商品開発前のリアル研修をデジタル化。商品の魅力の学びだけでなく、ブランドの世界観が体感できるようにした。コロナ禍で展示会への出展ができなかったこともあり、ビジネスパートナーの関心やニーズに合わせたマルチメディアコンテンツも展開し、BtoB施策を強化している。
BtoBtoCモデルにおけるエンドユーザーの価値最大化にあたっては、価値伝達プロセスからB(ビジネスパートナー)と一体化しながらC(エンドユーザー)への提供価値を最大化する方向に舵を切っている。同時に、エンドユーザーへの直接的な価値提供も強化している。また、今後は購入後の価値提供も継続し生涯顧客価値提供を強化する、と締めくくった。
実践対談
老舗企業の営業現場を変える100年目の挑戦
〜 対面コミュニケーションからデジタル「ハイブリッド型」コミュニケーションへ 〜
リンナイ株式会社
営業本部 販売管理部 DX推進グループ
加賀将之氏
株式会社ヤプリ
マーケティング本部
高橋知久氏
加賀氏は2010年にリンナイに入社し経営企画部に配属。その後、国内営業部の管理部門、採用教育、法人営業などの経験を経て、2020年より営業本部DX推進グループにて得意先や消費者との新たな取り組みへの挑戦を開始。老舗企業リンナイの新設されたDX推進部署で、チームのサポートのもとビジネスプラットフォーム「Rinnai BiZ」を推進し無事ローンチ。現在はユーザー獲得に日々奮闘中。
高橋氏は2005年、野村證券に入社し、個人~上場企業と幅広い対象に資産運用を提案。2014年クレディ・スイスに入社し、富裕層を相手に資産管理の提案業務を行った。11年間の金融業界の後、2016年「freee株式会社」に入社し、中小企業・士業向けの営業とマネジメントを担う。2019年3月よりヤプリ(yappli)に入社し、外勤営業・内勤営業を経てマーケティングの役割を担っている。
冒頭、加賀氏がBtoBのコミュニケーションについて問題提起をし、以降、対談形式で情報伝達の仕組みと仕掛けを二人が語った。
メーカー側は
・より効率的に情報を伝えたい
・取引先/販売店(工務店・設計事務所など)からの要望に早く正確に回答したい
・取引先/販売店側は情報がたくさんありすぎて迷う
・欲しい情報にすぐにたどりつけない
などの課題に対し、リンナイはデジタルを活用した“ハイブリッド営業”を実施している。外出先・出先でも使える「Rinnai BiZ」プラットフォームを構築し、タブレットやスマートフォンで使えるアプリやLINEのアカウントを用意。買い換えや在庫検索、技術情報などの業務支援サービスに加え、ユーザーの体験記事や動画、カタログなど販売促進につながるさまざまなコンテンツを提供している。
電子カタログのアプリ化は、リンナイ製品を販売するビジネスパートナー(取引先/販売店)が大量な冊子を持ち歩く負担がほぼなくなり、さらに閲覧性、検索性や更新性(常に最新の情報が手元にある)も格段に向上した。
動画ギャラリーは、コロナ禍で商品を実際に見たり触ったりしなくても理解してもらえるようにデザイン。最新情報を届け、業務を効率化し、サポートを強化する目的である。
アプリは、「プッシュ型の情報提供(プッシュ通知機能)」を可能にし、取引先/販売店がエンドユーザーに最新情報を紹介するのにも便利だ。リンナイロゴがスマートフォンのトップ画面にあることで、愛着や親近感の醸成、ロイヤルティの向上にもつながる。
効率化、サポート強化の効果は絶大で、これまで取引先/販売店からリンナイ本部への問い合わせの件数は約3分の1に減った。「リンナイが休みの土日でも仕事がスムーズに進む」との声も多い。
リンナイでは現在、ウエブとアプリで見られるコンテンツがほぼ同じなため、今後はアプリの特性をより生かした専用コンテンツを充実させ、ロイヤルティの高い取引先/販売店を増やし、アプリ上でチャットをするなど、双方向性も高めていきたいとのことだ。
BtoBコミュニケーションにおける鮮度とタイミングの重要性、デジタル化の効果が2社の事例から明らかになった。
2021年10月27日 オンラインにて開催
source : 文藝春秋 メディア事業局