『共同幻想論』などで一世を風靡した思想界の巨人・吉本隆明(1924~2012)だが、コピーライターの糸井重里氏は、そんな彼の意外な日常生活を目撃していた。
糸井氏
「思想界の巨人」というあだ名を、ご本人はどう思っていたのか、いまさら冗談のように聞いてみたいという思いがある。
「僕は、ふつうに生きている人、あるいはそういう生き方をすでにやっている人の生き方が、いちばん価値ある生き方だと、理想としています」。「ほぼ日」の創刊5周年記念の講演で、吉本隆明さんはこうしゃべりはじめた。そういう人を100点だとすると、その価値からいちばん遠いところにいるマルクスのような人が0点ですというふうに話は続いた。自身については、器量がなくて「中間ぐらい」と採点していた。
ふだんの世間話で、これに近い内容のことを、ぼくは吉本さんの口からいちばん多く聞いた気がする。
吉本隆明
吉本ばななさんが、「父から唯一教えられたこと」が「人が集まったときには、いちばん低いものでいなさい」ということだったとどこかで言っていたが、そのこととも通じているように思える。子どもに教えるばかりでなく、日常生活のなかの吉本さんは、それをいつでも実践していたようだった。
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source : 文藝春秋 2022年1月号