「世界のミフネ」こと三船敏郎(1920~1997)。彼が世界的名声を得たのは、巨匠黒澤明監督とのコンビ作だ。黒澤監督の長女、和子氏はスターではない「素顔のミフネ」に接していたという。
幼い頃の思い出として覚えているのは、黒澤組恒例の宴会で、三船敏郎さんや加山雄三さんが寸劇をしたり、スタッフ全員で輪唱をしたりといった風景です。
酔っ払いが鴨居にぶら下がり、ミーンミーンと鳴いていたり、家の池に飛び込んだりしているのが何処の家でも当たり前なのだと思っていたのです。だから友だちの家へ初めて行った時には、とってもカルチャーショックを受けました。
父は危ないからと私を撮影現場には連れて行ってくれませんでした。だから現場での三船さんは知りません。幼かった私にとって、大きい声の怖いおじさんというイメージしかありませんでした。しかし後年、父が三船さんは演技にスピードがあり天才だったと話してくれたものです。
それとよく聞かれるのですけれど、父と三船さんは「袂を分かった」わけではないということ。「2人で出来る事はやり尽くしたからだ」と教えてくれました。それが事実なのは、三船さんがご自身のプロダクションを作られてからも、父のもとへ相談や、上手く繋がらない編集などの助言を求めて訪れていたからです。
三船敏郎
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source : 文藝春秋 2022年1月号