東京五輪で金メダルを獲得したソフトボール日本代表の絶対的エース、上野由岐子(39)。元日本代表監督の宇津木妙子氏が、出会いから今日までをふり返る。
宇津木氏
上野由岐子投手との出会いは、彼女が高校3年生の時に遡る。もともとはその1年前、シドニー五輪の日本代表選手に抜擢すべくスカウトに行く予定だったが、前日に体育の走り高跳びで腰の骨を折る重傷を負い、高校への訪問は中止に。代表入りも断念せざるを得ない事態となったが、上野の身体能力は、どのスポーツをやっても世界的なアスリートとして名を馳せるだろうと思わせるほど秀でていた。「私のチームに所属させ、育て上げたい」。上野は、日本代表が金メダルを取るには絶対に必要な選手だという確信があり、チームに招き入れた。
案の定、日本リーグで歴史を変える数々の記録を塗り替える活躍を果たす。2004年のアテネ五輪では、日本代表となったものの高熱を出すなど体調に異変が続き、思うような活躍ができなかった。しかしリベンジを誓った2008年北京五輪では、見事、金メダルを獲得した。
上野といえば、北京五輪での「413球の連投」を思い浮かべる人が多いだろうが、私は2002年の世界選手権が印象深い。完全試合を成し遂げた試合後の記者会見。「完全試合はどの時点で意識したか」の質問に、「初回です」の回答。この子は異次元の世界で生きていると苦笑した。06年の世界選手権では、投球で金属バットをへし折るという珍記録も。誠に信じがたいことをやるのが上野由岐子という投手である。
上野由岐子
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source : 文藝春秋 2022年1月号