史上最年少で四冠を達成した藤井聡太竜王(19)。師匠の杉本昌隆氏は、およそ10年前、その才能を目の当たりにした。
杉本氏
10年ひと昔と言われるが、時の流れが速い現代なら「ひと昔」は5年ぐらいか。感じ方は人それぞれだが、昨日のように鮮明に思いだす10年もあるものだ。
あれは2010年のこと。将棋を本格的に学びたい少年少女が集う東海研修会、幹事の私は新しく入会してきた小学1年生の聡太少年と出会った。彼の将棋を見てすぐに分かった。外見こそまだ幼い少年だが、中身は才能の塊であることを。同時に強烈な個性を見た。子どもには珍しい長考派なのも印象に残った。
三つ子の魂百まで。今、藤井竜王が見せる妥協なき探究心はきっと当時と同じである。
自分は才能型や努力型でなく「環境型」だと藤井竜王は以前語っていた。たしかに修業時代、聡太少年の身近には少し年上の兄弟子が何人かおり、関係は良好であった。
一つの将棋盤に皆でくっついてワイワイと検討をする。まるで子犬がじゃれているような光景であった。
年齢は下でも、持っているポテンシャルはその中で一番。おやつ休憩中に皆で携帯から将棋サイトを開き、リアルタイムで行われている棋士の対局を検討しているときのこと。
「ひと目(自分なら)こう指すけどなあ」
聡太少年の予想は数十分後に現実となり、画面の向こうの棋士がそれを選ぶ。棋士が悩む難解な局面の正解を、当時小学生の聡太少年が一瞬で見抜く。これが後に語られる藤井竜王の「空間把握能力」であろう。
藤井聡太
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source : 文藝春秋 2022年1月号