検察報道はなぜ『甘い』のか

新聞エンマ帖

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★「記憶の風化」を自ら体現

 日本の新聞はとにかくメモリアルが大好きなようだ。昨年も、3月の東日本大震災から「10年」に始まり、12月の日米開戦から「80年」まで、節目に伴う回顧記事がどっと紙面に溢れた。記憶の風化をとどめる努力は大切とは思うが、とりわけ「80年」の方は、あまりにも似た題材と切り口、結論に終始する記事ばかりで、効果のほどが不安になる。

 各紙1面の名物コラムが「共演」する様は摩訶不思議だ。なんと5紙のうち3紙までが演劇人か映画人ないしは映画をネタとして始まり、似たオチで終わる。

 朝日の7日「天声人語」は、開戦が報じられた日、作家の野口冨士男が米映画「スミス都へ行く」を観た話から始まるから、こうくるだろうと思ったら、そう来た。映画を「アメリカ民主主義を鼓舞するような作品」とし、「対米戦争が日本の民主主義の未熟さの果てに起きたことを考えれば、皮肉な取り合わせだ」と書く。

 毎日の8日「余録」も、当時、米映画の配給会社にいた淀川長治が開戦を伝える号外を見て「『しまった』という直感が頭のなかを走り、日本は負けると思った」と回想した話を引いて、「緒戦の大勝に熱狂する世論、米映画通が予感した敗戦」などと対比してみせる。

 日経の8日「春秋」も、喜劇俳優の古川ロッパが開戦直後、家族や友人と熱海に遊び「温泉とグルメ三昧」だった様子を日記から紹介する。オチは予想に違わず、「しかし、やがて戦況は悪化し、大本営発表とは裏腹にロッパの日記もどんどん嘆きが多くなる。1944年の暮れには、ごちそうの並ぶ夢を夜中に何度も見て『かなしい』と書いた」である。

 何も、横暴な権力と虐げられる庶民とを対比するやり方がステレオタイプだと言いたいのではない。世論を熱狂させた新聞自身の責任はどこへ行ったのか。

 名誉のために書けば、「天声人語」は当日8日、「真珠湾といえば航空機による攻撃が思い浮かぶが、海中を進む特殊潜航艇5隻も参加した」と始めて、末尾で「戦時下、朝日新聞はじめメディアは死をたたえ続けた。特殊潜航艇の戦死については『軍神九柱』『偉勲輝く』の見出しで、若者たちの顔写真を並べた。神格化と命の軽視は紙一重なのだと改めて思う」と書き終えている。

 出来れば神格化と命の軽視の責任に言及してほしかったが、書いただけ他紙よりは誠実である。これが掃き溜めに鶴のように思えたこと自体、新聞の記憶の風化は深刻ということではなかろうか。

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真珠湾攻撃

★「政権批判」は事実で勝負せよ

 衆院選で民意の審判が下された結果とはいえ、政治記事の様変わりには鼻白むばかりだ。敗北を受け立憲民主党の泉健太新執行部が「批判だけではダメだ」と心を入れ替えただけで、こうも現金に紙面が大がわりするものなのだろうか。

 10万円給付問題を巡る岸田文雄首相の方針転換を伝えた14日朝刊が典型だ。

 もともと現金とクーポンでの給付が基本方針だったのを、13日の衆院予算委員会で首相自身が全額現金給付も無条件で認める考えを表明したのだから、これが安倍、菅両政権時代なら「政権に打撃」などと大騒ぎしたはずである。

 ところが朝日の1面の見出しは「全額現金 条件つけず容認」とあるだけで、2面の解説記事も「火種排除 かじ切った首相」と妙に物分かりが良い。

 勢いづくはずの野党についても、「批判・提案 織り交ぜ 立憲新執行部、初の予算委質疑」と党の内情分析に終始するばかり。これでは、政権と野党のどちらが攻め込まれているのかも分からない。

 評判が悪ければさっさと引っ込めるというのが岸田流か。立民の現状を見越しての戦術か。暴くべき論点は幾らでもあると思うが、何とも追及の筆が鈍い。

 こうなるとさぞ大変だろうなと思うのは、安倍批判で鳴らした論客たちだ。

 毎日の与良正男専門編集委員は8日夕刊の「熱血! 与良政談」で「少なからぬ立憲の強固な支持者には『立案型』は与党にすり寄っていると映るらしい」と書く。「でも、ずっと野党でいてほしいのならともかく、同じ土俵で競い合ってこそ、再び政権交代の可能性が出てくるというものだ」とし、「立憲と共産党の連携話ばかりに関心が向かいがちな私たちマスコミも、野党の政策を丁寧に報じていく必要がある」と結ぶ。

 立民新執行部に寄り添う現実主義への転換宣言と言えようか。他方、朝日の高橋純子編集委員は逆の理念主義に進む。

 同じ8日朝刊の「多事奏論」で「政権批判はムダですか 汚れたお重 洗わぬわけには」と題して、「当世において政権批判をするひとびともまさに『却ってムダでうっとうしい』と目されているが、だから批判を控えよというのはこれまた妙ちきりんなことである」と書く。

「森友・加計学園問題とか桜を見る会とか日本学術会議の任命拒否とか、汚れたお重が積み上がっている」とし、「洗おうとしたり洗わせようとしたりするのは当然」で「批判するだろ、そりゃ」と結論づけるのだ。

 2人の文章は潔いし、覚悟のほども分かるのだが、どうにも腑に落ちないのは現実政治や世間との接点が感じられない点なのである。野党の政策を巡る手厚い報道は勝敗に関係なく衆院選の前から有権者が求めていたことだと思うし、世間が「控えよ」と思っているとしたら、それは批判全般でなく、独善的で非建設的な批判に限ってのことではないのか。

 政権批判の是非を頭の中であれこれ巡らせるより、政権の実態を暴き事実を突きつける方が読者にはありがたい。

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桜を見る会

★権力者の本音と思惑を暴け

 世界にはまだまだ、見事なうっちゃりをかける記者がいるものだと思った。

 12月10日、たまたま見たフジテレビのニュースで知った。国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長に対するオンラインの記者会見である。

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source : 文藝春秋 2022年2月号

genre : ニュース 政治