夏木マリ・演出家
「裏切るのが好き」。舞台を前に夏木マリ(69)は、目を輝かせる。演劇の世界に飛び込んだとき、夏木は30歳。右も左もわからなかったから、がむしゃらに経験を積んだ。
「だんだんと集団での立ち位置がわからなくなってきて、40歳を過ぎて始めた一人舞台が『印象派』。まさかこんなに続くと思わなかったけれど」
「印象派NÉO」と名前を変え、今では再び集団で舞台を創っている。こだわるのは、「身体言語」だ。
「世の中、誰もが何かと折り合いをつけて生きていますが、舞台の上では本能のまま動ける。そこに言葉や説明はいりません。肉体の発する言葉に耳を傾けたいし、私自身、一つでも多くその言葉を持っていたい」
演じるよりも、舞台を「創る」ほうが面白いと気づいた。
「空間と時間を使って思う存分遊んでいるというのかな。『なんだこりゃ』とお客さんを裏切る舞台が理想です」
そう言うと、いたずらっぽく笑った。
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source : 文藝春秋 2022年2月号