自民党に伍するために必要な改革とは?
青山氏
「常に自民党と戦っている政党」
衆院選後、初めての論戦が繰り広げられた昨年の臨時国会も最終盤、私は立憲民主党本部で泉健太代表と向かい合っていた。少し疲れた表情に思えて「代表職は疲れますか」と尋ねると、「疲れるっていうよりも、もっと期待に応えるにはどうしたらいいか考える日々ですよ」と笑った。
10月の衆院選で立憲民主党は、現有議席を14議席も減らす96議席に沈んだ。対する自民党は261議席。惨敗と言っていい。
「政権の受け皿として認知していただけなかった。それ以上に、政権担当能力を示すことができなかった。経済運営や社会保障、外交安保について公約の中には書いてあるけれども、それがこの国の政策になるという実感を持ってもらえなかった」
政権交代可能な二大政党制を目指して、衆議院に小選挙区比例代表並立制が導入されて25年。その理想からむしろ遠ざかっているように見える。野党第一党・立憲民主党はなぜ政権の受け皿として認められないのか。失敗の本質は何なのか。そしてこれからどう進めばいいのか。
泉は代表に選ばれた直後の記者会見で「常に自民党と戦っている政党とみられた」と反省の弁を述べた。
政権与党の政策や政治姿勢の問題点を質すことは、野党の重要な役割の一つだ。しかし政権の受け皿として認められるためには、現実的に政権を担える能力を示し、無党派層のみならず自民党支持層からも一定の支持を集める必要がある。ある立憲民主党議員はこう語る。
「学級委員長のやることを大声で批判ばかりしているクラスメートがいたとしても、次にお前が学級委員長をやれとはならないよね」
泉健太代表
抵抗の原点「安保関連法」の攻防
立憲民主党がなぜこのような「抵抗型政党」となったのか。原点を探っていくと、2015年の安全保障関連法を巡る攻防に行きつく。55年体制さながらの、安保政策を対立軸とした与野党対決の泥沼にはまりこんでしまったのだ。
集団的自衛権の行使については、2012年7月に民主党の野田佳彦首相が議長を務める国家戦略会議の下部組織が「保有しているが行使できないとしてきた政府の憲法解釈の見直し」を求める報告書を提出している。実は民主党政権下でも検討されていた。
しかし2015年5月に法案が国会に提出されると、日に日に対立が先鋭化していく。これは安倍政権の強引な国会運営や荒っぽい説明への反発もあっただろう。そしてどんなに世論の反発が強まっても安倍は「決めるときには決めていただきたい」として、法案を次の国会に先送りすることを拒んだ。審議の最終盤には国会議事堂前に1万人を超える人々が押し寄せて、60年安保闘争さながらの光景になった。そして同年9月、抵抗の甲斐なく法案が成立すると、民主党議員は共産党や社民党と共に群衆の前に立って叫んだ。
「暴力的な強行採決の景色を忘れないでください。そしてこれからも一緒に戦ってください!」
泉はこう振り返る。
「院外闘争からさらに『こんな政権は許せない』という、全面展開的な政権対峙型の活動になっていった。新しい市民との繋がりの尊さはあったと思いますが、たとえ国会前に10万人が集まったとしてもその奥には広く静かに過ごしている多くの国民がいて、それがマジョリティなんでしょうね」
その後、民主党、続く民進党が安倍政権に徹底抗戦する姿勢は常態化する。これは2017年に森友・加計問題が政権を直撃したことも大きい。泉は「安倍首相が疑惑を認めない。ゆえに押し問答が続き、いつの間にか追及を強いられる環境に陥ってしまった」と振り返る。
そして2017年10月、立憲民主党が誕生するが、ここでも安保法制への賛否が鍵となる。希望の党に合流する条件とする政策協定書の原案には、こう盛り込まれていた。
「限定的な集団的自衛権の行使を含め安全保障法制を基本的に容認し、現実的な安全保障政策を支持すること」
最終的にこの表現は若干丸められたが、この協定書原案が出回ると民進党議員は激しく動揺した。これまでの主張を180度変えるのか——。
「排除」されると悟った議員は、立憲民主党の結成に走り始めた。結党の朝、後に幹事長に就任する福山哲郎議員は電話口で私にこう話した。
「もう新党結成の方針は固まった。私なんて排除リストの筆頭だよ。安保法制の時は国会前であれだけやったんだから」
立憲民主党のDNAに安保法制に反対する姿勢が深く刻まれた。そして4年後の2021年、総選挙に向けて共産党などと合意した共通政策にもこう盛り込まれた。
「安保法制の違憲部分を廃止する」
安保法制容認に踏み切るのか
自民党との対立軸がいつまでも安全保障問題であることは、政権交代を目指す立憲民主党を難しい環境に置くことになった。経済政策や社会政策と異なり、安保政策は政権が変わっても安定的であることが国際的にも望ましいからだ。外交安保政策は主権国家同士の約束事に関わることで、他国との信頼関係に影響を与える。枝野幸男前代表でさえ著書の中で「中心的な対立軸にすべきではない」と語っている。
実際に「集団的自衛権の一部行使容認」の撤回は現実的なのか。日米外交筋に話を聞くと、「米軍と自衛隊は、有事にはお互いに守り合うという前提で運用を開始していて、共同訓練も行っている。今更法律が廃止になると信頼関係を大きく傷つける」と話す。厳しさを増す日本の安全保障環境下では難しい選択となる。
泉に問うと、対応を再検討する必要性を示した。
「安全保障環境は年を追うごとに変化してくるので、当時の我々が考えていた『違憲部分の廃止』を具体的にどう実現できるのかを考えなければいけない」
ではいつ見直すのか尋ねると「政権を取った時点で」と言う。私は「政権担当能力が問われているのだから、選挙前に見直す必要があるんじゃないか」と質したが、泉は少し表情を強張らせてこう答えた。
「党の基本政策に則ってこの党があるので、現時点では見直すことはありません。ただ今後、参院選の政策も立案していくので、その中で再検討の議論が起こるかもしれないし起こらないかもしれない」
極めて曖昧な回答だ。はたして泉が安保法制の容認に踏み切るのか、立憲民主党のスタンスを大きく左右することになる。
「共産党があんなにはしゃぐとは」
立憲民主党の立ち位置をさらに難しくしたのが、共産党との選挙協力だ。共産党は安保法制を巡る共闘をきっかけに、野党連合政権を目指す方針に明確に舵を切った。
この背景には懐事情もあるだろう。党財政を支える機関紙「しんぶん赤旗」の発行部数はピーク時の3割近くにまで落ち込んでいる。300万円の供託金没収も辞さずに、かつてのようにほぼすべての小選挙区に候補者を立てるのは厳しい。
加えて共産党関係者は、支持者をつなぎとめるには「確かな野党」から「政権を目指す政党」へのバージョンアップが必要だったと話す。2021年衆院選向けのパンフレットからは、共産党の意気込みが伝わってくる。
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source : 文藝春秋 2022年2月号