文藝春秋物流DXカンファレンス「総合物流施策大綱全解剖」が2021年11月25日(木)、オンラインで開催された。
21年6月に閣議決定された、今後5年間の日本の物流施策の指針となる「総合物流施策大綱(21年度~25年度)」が描く課題と未来を解説。課題の解決、社会経済の変化への対応に欠かせない、物流DX(デジタルトランスフォーメーション)について考察した。
基調講演(総合物流施策大綱で描かれた未来図)
ポストコロナを見据えた物流のあり方
~物流DXによる担い手にやさしい物流の実現~
敬愛大学経済学部教授、一橋大学名誉教授
総合物流施策大綱検討会座長
根本 敏則氏
基調講演は、国土交通省の物流施策大綱(2021~25年度)に関する検討会座長を務めた根本敏則氏が、ドライバー不足による物流危機の懸念を踏まえ、新たに「担い手にやさしい物流」を重要目標に掲げた新大綱を解説した。
新大綱は、物流のDXや標準化でサプライチェーン最適化・効率化による「簡素で滑らかな物流」、強靱で持続可能な「強くてしなやかな物流」とともに労働力不足対策と物流構造改革を進める「担い手にやさしい物流」の3つが重要目標となった。DX・標準化による生産性向上が待遇を改善し、不足する担い手のを保しやすくすることで、強靱な物流にもつながるとして「3つの目標は互いを達成する重要な手段でもある」と説明。単なる目標の提示にとどまらず、社会資本整備重点計画、交通政策基本計画とも連携し、KPI(重要目標達成指標)を設定して進捗管理も行うとした。
物流DX・標準化では、荷主ニーズに合わせたカスタマイズで荷主を囲い込む習慣を改め、パレット(輸送に使う台)をはじめ標準化を進め、積み卸しなど荷役を自動化・効率化を推進。デジタル・タコグラフ(運行記録計)やWIM(車両重量自動計測装置)といったデジタル機器で、長時間運転や過積載を路上で実効性高く取り締まり、悪質な物流業者を排除すべきとした。
また、トラックの積載率向上のため、物流・商流のデータを活用した荷物とトラックのマッチングの取り組みを紹介。商流データは機密性の点で、共有は一般に困難だが、過疎地の宅配便共同輸送などの例を挙げて「特定の荷主らがサプライチェーン内でリーダーシップを発揮し、混載による積載率向上で物流を効率化し、そこから得られるメリットをステークホルダー間で上手に配分できる仕組み」の拡大を期待した。
再配達を削減する「置き配」推進。高速道路で導入が始まった大型トラック2台分のトレーラー、ダブル連結トラックなど輸送機材大型化の動きにも言及。待遇改善には「最低賃金引き上げも有効ではないか」と語った。
テーマ講演① (業務効率化、手順書作成)
Logistics業務のDXと生産性向上~マニュアルの電子化というアプローチ~
株式会社スタディスト
営業部・副部長
藤澤 徹志氏
ビジュアルベースのマニュアル作成・共有ツール「Teachme Biz(ティーチミービズ)」を提供するスタディストの藤澤徹志氏は、物流業界のDX、生産性向上にも成果を上げているマニュアルの電子化について紹介した。
だれでも手順に従った正しい作業をできるようにすれば、作業品質のばらつきを減らして価値の逸失リスクを低減し、付加価値は高まる。定められた手順に沿った作業は余計な時間・コストの発生も防ぐ。さらに、マニュアル化によって、1人が複数業務に対応できるようになり、欠員に備えた過剰な人員を抱える必要もなくなり、付加価値を増やし、労働投入量を減らすことで「付加価値÷労働投入量」で計算される生産性を向上できる。
ティーチミービズは、画像や動画などビジュアルベースのマニュアルを簡単に作成でき、文字主体のマニュアルに比べて、圧倒的にわかりやすくなる。ポイントは、手順を区切って説明するステップ構造のフォーマットだ。自分のペースで、マニュアルを見ながら作業できるので、再現性も高まる。また、マニュアルから研修コースを作成し、閲覧の進捗も把握できるトレーニング機能を使って、研修にも活用できる。
導入事例では、クラウド上のマニュアルは、いつでもどこでも閲覧できるので業務手順の標準化が進んだという物流事業者。品出しなどの細かい作業のコツをマニュアルで普及させ、作業効率を3倍にしたスーパーマーケット。10日間の新入社員研修を7日に短縮し、学んだ手順もいつでも見返せるようにしたことで不安が解消され、離職率を改善でいた食材宅配事業者を紹介。
業務は、経験知識を要する高度なA業務、条件に応じて手順の選択が必要なB業務、手順を知っていれば、だれでもできるC業務の3つに分類できる。スタディストの調査では、どの会社もB、C業務が8~9割を占めているとした藤澤氏は「業務の大半はマニュアル化できるので、マニュアルのビジュアル化、電子化は非常に大きな効率化を期待できる」と語った。
特別講演(物流DX、SCMの高度化、業務の効率化)
「持続可能な加工食品物流プラットフォームの構築を目指して」
味の素株式会社
上席理事食品事業本部物流企画部長
堀尾 仁氏
「商品をお客様に届けられなくなる日は目前に迫っている」。味の素で物流を担当する堀尾仁氏は、こう危機感をあらわにした。背景には、ドライバー不足など物流一般の問題に加え、加工食品の物流に特有の問題もある。
受注日翌日納品の積み込み作業は常に深夜に及ぶ。働き方改革関連法が物流業界にも施行されて残業時間の上限が厳しくなれば、輸送距離は限定される。納品先の混雑による慢性的な長時間待機や荷下ろしの時間を考慮すると、状況をさらに厳しくなる。「商習慣の見直しを含め、持続可能な加工食品物流に進化させなければならない」と訴えた。
改革に向けて、味の素など食品メーカーは、課題解決のための協議体を立ち上げ、共同物流会社F-LINEを設立。関連団体や行政とも協力しながら、受注から納品までのリードタイムに余裕を持たせることや、荷下ろしなど付帯業務の改善、長時間待機の解消、賞味期限が3分の2以上残っていないと納品できないルールを2分の1への見直しなどを進める。さらに、メーカーから卸・小売までのデータをつなぐスマート物流の構想に向け、各社で異なる商品情報コード標準化や、会社間で電子伝票をやりとりできる仕組みづくりに取り組んでいる。
スマート物流は、①現状の作業をデジタル化してデータを可視化、②電子伝票、予約受付などのテーマごとに業界標準エコシステムを構築、③各エコシステムをつなげ、業界のサプライチェーンを担う物流データプラットフォーム構築④他業界とデータ接続――と段階を追って進める考えを示した。
堀尾氏は「『標準化、効率化は必要』という総論賛成の段階から、各論を社会実装しなければならない時に来ている」と強調。メーカー間、サプライチェーンに携わる製配販(メーカー・卸・小売)の連携のほか、国土交通省、経済産業省の行政当局、業界団体、経済団体とも連携して、検討を加速し「物流の景色を変えなければならない」と訴えた。
テーマ講演② (物流施設の高度化、機械化、省力化)
プロロジスが創る、物流センターの新たなステージ
DELIVERING VALUE BEYOND THE BUILDING
プロロジス
開発部物流コンサルティングチーム
シニアマネージャー
本庄 哲太氏
コロナ下のインターネット通販(EC)普及に伴い、EC関連の物流不動産需要が伸びている。世界19カ国で物流施設事業を展開し、日本でも72施設を開発・運営するプロロジスの本庄哲太氏は、最近の物流施設をめぐる世界的なトレンドを紹介した。
EC物流では、ピッキング、梱包などの作業の自動化が進められていて、施設にはロボットや機器設置のための床面品質、天井強度等が求められる。一方、自動化に伴って、労働力確保の優先度は相対的に低下し、災害時の事業継続性、サステナビリティ対応、消費地との距離の近さ、多目的利用が可能なことが施設選定で重視されるようになっている。
同社は、災害に備えた常時稼働の防災センターや非常用電源の導入、再生可能エネルギー利用に注力。立地面では、配送コスト圧縮を期待して、郊外から都市部へのシフトが見られることから、同社も品川区、足立区などに都市型賃貸施設(プロロジスアーバン)を整備した。従来からEC物流施設は、商品撮影のスタジオやコールセンターなどの周辺業務にも使われていたが、都市型施設は、研究開発、ショールーム、セントラルキッチンなど、さらに用途が拡大。「人材確保が難しい郊外の倉庫、内装や天井高に制限のある都市部オフィスのいずれでもニーズを満たせない使い方が約8割を占めている」と説明した。
同社は、施設利用者の売上拡大、コスト削減を支援する、物流DXソリューションを提供。作業員の作業実績などを簡単に記録できる「ロジメーター」を物流ソリューションプロバイダーと開発し、来年には、現場管理業務をデジタル化できる「ロジボード」もリリース予定。庫内のデータを収集して、需要予測や計画立案に活かすDXを支援する。
また、物流自動化のノウハウを提供するコンサルティングに加えて、身近な課題を気軽に相談できる「クイック物流相談」のサブスクリプションサービスの提供を開始。「施設利用者の悩みに応えるオーナー」をアピールした。
テーマ講演③ (物流DX、コミュニケーション改善)
スマホひとつで現場が動く、物流業界のDX革命
~LINE WORKSによるサービス品質向上の取り組み事例をご紹介~
ワークスモバイルジャパン株式会社
マーケットデベロップメントスペシャリスト
内藤 佐知子氏
圧倒的なシェアがあるコンシューマー向けのコミュニケーションツール「LINE」、その使用感を踏襲したビジネス版LINE「LINE WORKS(ラインワークス)」を提供するモバイルジャパンの内藤佐知子氏は「身近なところから取り組めるDXの第一歩」としてビジネス向けコミュニケーションツール導入の意義を説明した。
電話は、つながるまでに時間がかかったり、口頭での言った言わない問題が発生したりする。チャットツールなら、都合の良い時に送信・確認でき、やりとりの記録も残るので効率的なコミュニケーションが可能だ。しかし、LINEなど個人向けツールをビジネス利用すると、部外者への機密情報の誤送信、退職者の情報の持ち出しが起きる可能性や、スマートフォンの紛失盗難時のセキュリティに課題がある。
ラインワークスは、多くの人になじみがあるLINEの使いやすさを踏襲しつつ、会社側の管理機能を搭載し、セキュリティも強化した。メンバーや組織は会社側で管理できるようにすることで部外者への誤送信防止、退職者のアカウント削除、紛失盗難時の強制ログアウト機能により、情報漏えいリスクを低減できる。
ラインワークスはLINEともつながることができる唯一のビジネスチャットで、顧客や委託先のドライバーなど社外の人のLINEとやりとりできる。既読確認も個人単位で可能だ。また、掲示板やカレンダーなどグループウェア機能もあり、勤怠管理などの業務システムともAPI連携できる。
ラインワークスを導入した物流会社では、電話の数が半減し、大型車が通れない道など口頭で説明が困難な情報も、地図の画像でスムーズに伝えられるようになった。納品した品物の破損などのトラブルも写真で報告でき、迅速な対応でサービス品質向上につなげている。内藤氏は「コミュニケーションのやり方を変えるだけで残業時間削減、業務効率化や、顧客の満足度向上など大きな効果が期待できる」とアピールした。
ディスカッション
「物流変革の現在地 - 物流DX、機械化、省力化、SCM最適化の先にある世界」(仮)
株式会社西松屋チェーン
取締役執行役員社長室長
大村 禎昭氏
オイシックス・ラ・大地株式会社
ロジスティクス本部副本部長
水間 健介氏
日本大学生産工学部教授
鈴木 邦成氏
ディスカッションは、全国1000店以上を展開するベビー・子ども用品専門店チェーン、西松屋チェーンの大村禎昭氏と、「Oisix」「らでぃっしゅぼーや」「大地を守る会」のブランドを展開する食品宅配サービス、オイシックス・ラ・大地の水間健介氏が登壇。物流エコノミストで日本大学教授の鈴木邦成氏が司会を務め、物流のデジタル化、強靱化、人材確保に関する取り組みを語った。
大村氏は、物流センターのトラックバース予約システム導入によるドライバーの待機時間削減、物流センターと店舗の中間地点への通過型拠点開設などのトラック運行効率化や、物流センターで店舗の通路ごとに商品を仕分けてから配送して店の陳列作業を削減する工夫などを紹介。「商品の種類が多く、自動化が難しい部分もあり、標準化を重視している」と述べた。また、紙おむつなど子育ての際の必需品を扱う立場として「事業継続は使命」と強調。物流拠点を各地に分散させ、海上輸送も含めた代替ルートも検討するなど「災害時も商品を切らさない体制整備に注力している」と語った。
水間氏は、事業成長に合わせ、3年程度先を見すえたキャパシティを確保する拠点戦略を進めながら、人材も確保する難しさを語った。生鮮品を扱う同社は、今秋から新冷蔵センターを稼働、移転を進めるが、担い手不足の物流業界でも、冷蔵・冷凍センターの働き手確保はさらに難しいため「事業継続には機械化、省人化、生産性向上が不可欠」と強調。外国人や高齢の労働者に合わせて、言葉ではなく番号でピッキングできる仕組みや、細かい字のマニュアルを見やすくする工夫も必要と指摘。不足する物流DXのエンジニア確保には「未来のビジョンを伝えて引き付ける」ことも大事だとした。
鈴木氏は「両社は、先進的な取り組みをしているが、業界内には取り組みに温度差があるのも実情」と指摘。物流に携わる人材の裾野を広げ、物流の変革を進めるためには「私が教えているような大学生たちにも物流の魅力、重要性をわかりやすく伝える必要があると思う」と語った。
2021年11月25日 文藝春秋にて開催 撮影/今井 知佑
注:登壇者の所属はイベント開催日当日のものとなります。
source : 文藝春秋 メディア事業局