2人のドンの間に広がる亀裂。その一方で、野党にも重大な亀裂が……
水面下では権力者たちの暗闘
オミクロン株の感染が爆発的に広がる中、岸田文雄政権の支持率は高止まりしている。安倍晋三・菅義偉両政権下で見られた「感染者の増加=支持率下落」の法則とは今のところ無縁だ。
だが、一見平穏な政権中枢でも、水面下では権力者たちの暗闘が繰り広げられている。その通奏低音をなすのは、やはり岸田と安倍の冷たい戦争である。
昨年12月2日、銀座の高級ステーキ店「かわむら」で、現代のフィクサーとも言われる大樹総研会長の矢島義也が主催する食事会が開かれた。出席者は安倍、菅、経産相の萩生田光一、長島昭久ら。久々に菅と会食の機会を持った安倍は「菅内閣のコロナ対策が凄かったから今がある」などと持ち上げ、菅に向かって「やはり派閥を作った方がいいですよ」とけしかけた。
安倍の不穏な動きはそれだけではない。清和政策研究会の資金パーティーを開いた翌日の12月7日には、自民党本部五階の国土強靱化推進本部長室に二階俊博を訪ね、数十分にわたって話し込んでいる姿も目撃されている。
昨年、菅が退陣に追い込まれて以降、「冷や飯組」の菅・二階と安倍との間には強い隙間風が吹いていた。にもかかわらず、安倍がこの時期にあえて2人との関係が切れていないことを誇示するかのような挙動を示したのは、暗に「いつでも反岸田勢力と結ぶこともできる」という構えを岸田に示す意図があったことが透けて見える。
もっとも、安倍の思惑はそう簡単には進まない。年明け早々、安倍は親しい清和会関係者に「会食時に菅さんにはかなり強く派閥結成を働きかけたけどねえ。その場でも返事はなかったし、その後も反応は全くないなあ。やはり1年で政権が終わったことで私を恨んでいるのだろうな」とボヤいた。
そんな安倍を後目に、岸田は「大宏池会」に向けた絆を強めている。
重要なポイントは、岸田内閣の発足により、小選挙区制度下でも「疑似政権交代」が起きることが初めて示されたということだ。中選挙区制時代、自民党は派閥間の疑似政権交代によって目先を変えて一党独裁を継続してきたが、小選挙区制導入後は派閥が弱体化し、他党への政権交代が前提の政治に移行した。しかし今回、そのセオリーが崩れたのだ。
岸田本人もそれを国民に見せることを意識している。宏池会への執着が異常なほど強いのがその証左だ。四半世紀前、政治腐敗の元凶として派閥の解消が叫ばれて以降、自民党総裁は形の上では派閥を離脱するのが慣例になった。ところが岸田はそれを全く無視し、派閥の総会に何度も出席している。
安倍と麻生の隙間風
疑似政権交代の演出は政権運営にも顕著だ。もともと同根の岸田派と麻生派、谷垣グループの再結集を目指す「大宏池会」構想を最初にぶち上げたのは麻生太郎だった。その麻生を副総裁に、谷垣グループ代表世話人の遠藤利明を選対委員長に就け、頻繁に会合を重ねる。岸田ら3人に今すぐ大宏池会を結成するつもりはないが、「宏池会政権」を強調することで「反岸田」の菅や二階、そして最大派閥を率いる安倍も牽制する枠組みが出来ている。
岸田に安倍と全面対立する意図はないが、「アベノマスク」の廃棄表明など安倍と一定の距離を置くポーズで世論の支持も得るというしたたかさが功を奏している。
むしろ安倍の最大の誤算は麻生との間に隙間風が吹き始めたことだ。
カット・所ゆきよし
安倍は首相在任中から、退任後10年間は最大派閥の領袖として政界で影響力を行使したい、との意向を漏らしてきた。安倍にとって麻生は数少ない信頼できる盟友であり、絆を維持することが極めて重要な存在だ。最大派閥トップの自分と第二派閥オーナーである麻生が組めば、政局の主導権を握り続けることができるからだ。
ところがその麻生が岸田から最も大事にされている結果、安倍との間に微妙な距離が生じている。麻生派を筆頭にした「大宏池会」が100人を優に超え安倍派をも上回るということは、単純な足し算であっても、安倍の優位性に影響を及ぼす可能性があるからだ。
そうした安倍の手詰まり感が、岸田の野望に火をつける。
昨秋、あるベテラン政治記者が「岸田は来夏の参院選で勝利すれば、3年間の総裁任期中の解散は考えず、任期満了で退任する意向」という趣旨の記事を発表し、波紋を広げた。これについて訊かれた岸田は周辺に「そんなことがあるわけないじゃないか」と語気を強めて否定し、長期政権を目指す考えを強調した。直接岸田の言葉を聞いた側近は、その岸田の口調に長期政権への決意を感じ取ったという。
引退を見据える麻生太郎
岸田は今夏の参院選さえ乗り切れば、衆院の任期切れと次の参院選が共に予定される3年後まで「黄金の3年」を手にできる。ただ、それ以上の長期政権を望むなら、一度は解散・総選挙に踏み切ることが必要で、そのためには強い党内基盤が欠かせない。
今は基盤を大宏池会もどきに依存しているが、そこには大きな死角がある。今年で82歳になる麻生がいよいよ今期限りで議員を引退する道筋が見えてきたことだ。
そもそも、3回ほど前の衆院選時から、麻生は妻の千賀子から「そろそろ引退して(長男の)将豊に継がせて欲しい」と代替わりを強く促されているらしいとの情報が永田町を駆け巡ってきた。千賀子は宏池会出身の首相である鈴木善幸の娘である。落選経験のある麻生は、選挙区を長年奔走してきた千賀子に頭が上がらない。
その観測を加速させた動きが、衆院解散の3日後の昨年10月17日にあった。公明党福岡県本部の筑豊総支部が麻生の地元である福岡県飯塚市の飯塚コスモスコモンで開いた時局講演会に、麻生本人が姿を現したのだ。公明党の比例票獲得に向けた集会だっただけに、なおさら大きな波紋を呼んだ。
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source : 文藝春秋 2022年3月号