タイロン・パワー
Ronald Grant Archive/Mary Evans/共同通信イメージズ
ギレルモ・デル・トロが『ナイトメア・アリー』(2021)という新作を撮った。主演はブラッドリー・クーパー。題名を聞いて、おやと思った人は少なくないのではないか。
お察しのとおり、これは『悪魔の往く町』(1947)のリメイクだ。こちらの原題も『ナイトメア・アリー』で、監督がエドマンド・グールディング。というより、タイロン・パワーが主演して新境地を開いた映画と呼ぶべきだろう。当人も「私の出演作のなかで一番好きな映画」と公言してはばからなかった。
この映画はフィルム・ノワールの変種である。描かれている背景を見れば、カーニヴァル・ノワールと呼ぶべきかもしれない。タイロン・パワーが演じたスタン・カーライルはいかがわしい流れ者だ。そんな男が全米を移動する演芸団の一座に潜り込み、やがて独立した奇術師として名を売るのだが、最後は……。
という内容だから、愛欲や陰謀や残酷描写がしばしば顔を出す。とくにデル・トロ版では、お馴染みのグロテスクで悪夢的なイメージが頭に絡みつく。
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source : 文藝春秋 2022年3月号