超難関校進学には理由がある。
〈子供の教育にふさわしい場所を〉
悠仁さまの通うお茶の水女子大学附属中学と、進学先の筑波大学附属高校のある文京区大塚周辺には、いくつもの学校があり、昼間は学生たちの声があちこちから聞こえてくる。そこから南へ10分ほど歩いていくと街並みは変わり、小日向台の閑静な住宅街となる。鳩山家や歌舞伎の看板役者が邸宅を構える東京有数の高級住宅地だ。
その一角に白を基調とした英国風の、周囲の家とは異なる雰囲気を湛えた大きな家があり、表札には「正田」とある。かつてこの地には、上皇后美智子さまの祖父正田貞一郎(日清製粉創業者、1870~1961)が邸宅を構えていた。貞一郎は群馬県館林の出身で、36歳で東京に土地を求めた際、この地を選んだ。いまは美智子さまの親戚が相続して住んでいる。
創業65年を記念して刊行された『正田貞一郎小伝』(1965年刊)によれば、この小日向台の地に貞一郎が居を構えたのは1907年(明治40年)のことだった。
『小伝』にはこう書かれている。
〈居を小日向台町に構えた理由は、主として子供の教育上の便宜を考慮したからである。家族構成を考えて、だんだんと増築し、庭の一部にテニスコートをつくった。貞一郎は「私は館林から東京へ移った時、何よりも先に考えたことは、自分の仕事の便、不便よりも子供の教育にふさわしい場所を選ぶことだった」と話していた〉
家のすぐ裏手には、文京区で2番目に開校した小日向台町小学校があり、そして近くには、現在とは位置が少し異なるが、東京高等師範学校附属(現筑波大附属)小学校があった。
貞一郎には五男五女、計10人の子供がいた。長男、次男は小日向台町小に通ったが、美智子さまの父である三男英三郎は、高等師範学校附属小に入学。その後、附属中学、高校に進学した。さらに四男の順四郎、五男の篤五郎もまた、英三郎と同じく師範学校附属に通った。
1914年に撮影された、正田家のモノクロ写真を見ると、貞一郎・きぬ夫妻を囲む子供たちのうち3人の男の子が、たしかに師範学校附属の海軍風詰襟の制服を着ている。
貞一郎の娘たち、つまり美智子さまの叔母たちはお茶の水女子大附属と縁があった。『小伝』には、
〈二女勅子、三女祐子、五女和子はいずれも御茶の水の出身である〉
と記されている。
「筑附」と縁の深い正田家
筑波大附属との浅からぬ縁
「上州館林および近郊切っての富商」(『小伝』)の家に生まれた貞一郎は、外交官を志して上京し、神田一ツ橋にあった高等商業学校(現一橋大学)で学んだ秀才だ。後年、貞一郎を支援してきた東武鉄道の根津嘉一郎とともに武蔵大学の設立にかかわるほど教育熱心でもあった。
その情熱は子供たちに十全に受け継がれたようだ。次男建次郎は数学者(大阪大学総長)に、五男篤五郎は応用物理学者(東大教授)になった。二女勅子も、物理化学者で東大教授の水島三一郎氏と結婚している。
美智子さまの父、三男の英三郎は、貞一郎の後を継いで日清製粉の社長の座に就いた。だが経営者でありながら、派手な生活とは距離を置き、社交の場にもあまり顔を出さず、もっぱら家で読書することを趣味としていたという。
宮内庁関係者が語る。
「美智子さまはそんな父親の姿を好ましく思っていたようです。父への尊敬と親しみの念を持ち続け、著書の『橋をかける』では戦時中、東京の英三郎が疎開先に持ってくる文学選集や神話など数冊の本が、美智子さまにとっては何よりも楽しみだったことを綴っています」
ちなみに美智子さまの弟である修(日清製粉グループ本社名誉会長相談役)もまた筑波大附属(在学当時は東京教育大学附属)の出身だ。1959年、美智子さまが皇太子(現上皇)とのご結婚会見に臨む際に撮られた写真に、若き日の修の姿を確認できる。品川区の池田山にあった正田邸の玄関で見送る際に撮られた写真には、やはり海軍風の詰襟姿で納まっていた。
皇族の学校といえば、昭和の時代は学習院と決まっていた。高校進学にあたり学習院への進学もとりざたされた悠仁さまだが、祖母の係累をたどれば、筑波大学附属やお茶大附属とは浅からぬ縁があるのだ。
悠仁さま(宮内庁提供)
お茶中の雰囲気に満足
英三郎が師範学校附属を卒業してから約100年後の今年2月13日。曾孫にあたる悠仁さまは、学力検査のため他の受験生にまざって自らの足で大塚の坂を上り、筑波大学附属高校の正門をくぐった。
「悠仁さま受験」の情報は、前日の夜から報道各社を駆け巡った。翌朝は雨が降りしきる中、受験生や保護者だけでなく数10人もの報道陣が、悠仁さまの姿を捉えるべく校門周辺に詰めかけた。送迎の車にも乗らず、側衛も付けることなく、リュックを背負って1人会場に姿を見せた悠仁さまにマスコミは騒然となった。
「皇位継承者として、学習院以外の高校進学は戦後初」
3日後の2月16日、悠仁さまの筑附高校合格の一報とともに新聞にはこんな記事が載った。
悠仁さまは2010年春、多くの皇族が学んだ学習院幼稚園ではなく、お茶大附属幼稚園に入られた。そして小・中と内部進学されたのちに、今回、隣接する筑附高へ進学したのだった。
秋篠宮家関係者が語る。
「秋篠宮ご夫妻は幼稚園からの3年保育を望んでおり、学習院幼稚園が2年制なのに対して、ちょうど紀子さまが研究活動をされていたお茶大幼稚園が条件に合っていた。それで同大の女性研究者を支援する特別入学制度を利用して入園されました。
その後も小学校、中学校とお茶大附属に合計12年通われましたが、ご本人もご両親もお茶大の雰囲気にとても満足されていて、もし高校が男女共学であれば進学したかったと聞いています」
お茶中では、悠仁さまに対して気兼ねなく呼び捨てにする同級生もいて、皇族が相手でも構える生徒はあまりいなかった。悠仁さまにとっては、それが伸び伸びと過ごせた理由なのかもしれない。
仲の良い友人もいた。お茶中関係者が語る。
「電車マニアというか、ひとりで鉄道に乗って旅に出て、YouTubeにアップしている子と仲良しでした。悠仁さまと同じく小学校からの内部進学組でしたが、中学校に進学してしばらくすると不登校になってしまいました……」
お茶中には、パンなどを販売する購買部がなく、中学生は食堂も利用できない。そのため悠仁さまは手作り弁当を持参していた。また卓球部に所属していたため、授業を終えると部活動に励んでいた時期もあったようだ。
コロナ禍のため昨年は、ほとんどの学校行事が通常とは異なる形で行われた。とくに修学旅行は中止となり、6月に3日連続で都内の名所を巡る校外学習が企画されたという。悠仁さまは目黒にある雅叙園の高級レストランに行き、テーブルマナーを学ぶプランに参加したという。
全体的にのんびりとした生徒が多く、「自主自律の精神」を掲げる学校らしく勉強や運動を厳しく課されることもない。そんな校風が悠仁さまには合っていたという。
筑波大学附属高校の正門
物議を醸した提携校制度
一方、筑波大附属は偏差値78の超難関校として知られ、高校入試は男女あわせて80名の募集で、開成高校や日比谷、早慶附属と併願する受験生も多い。東大に毎年30人前後、早慶に150人程度が合格。いまは制服がなく私服で、一学年の生徒は約240名。OBには、永井荷風、鳩山邦夫、檀ふみ、鈴木光などがいる。学校関係者が語る。
「筑附とお茶大ではまったく校風が違います。筑附は知育、徳育、体育の調和を図る全人的人間の育成をモットーにしていますが、その言葉通り、文武両道で勉強も運動もしっかりやらせる。男の子も女の子も、『負けん気が強い子』たちが揃っています。我が強くないと逆にやっていけないくらい。悠仁さまが筑附に馴染めるのか心配です」
今回の受験で物議を醸したのは、悠仁さまがお茶大と筑波大との間に結ばれた「提携校進学制度」を使われたことだった。
制度の詳細は非公開だが、毎年成績優秀な生徒数名が、推薦と内部審査を経て相手校に進学できる。元々両校の縁は深く、ともに師範学校を前身とする歴史的背景もあり、大学間連携協定に基づき締結された。
「お茶小から筑附中に進学の際は、男女どちらも制度の対象になりますが、お茶中から筑附高進学にあたっては男子のみが対象です。一方、筑附から女子高であるお茶高へは当然、女子しか来られませんが、『筑附での人間関係をリセットしたい』『友達との仲が拗れた』という、あまり表では言えない理由から制度を利用する生徒もいるみたいです」(同前)
この制度は、悠仁さまが小五の時に導入された。高校入学の今年までの5年間の時限的措置だったことから、悠仁さまを優遇するための制度との見方が根強くある。
今回の進学にあたっても、「皇族特権に対する不満」(「週刊女性」2月15日号)、「“裏口”ルート」(「週刊新潮」2月17日号)など厳しく批判する記事が相次いだ。
そのため合格発表後、筑波大学の永田恭介学長は会見で「悠仁さまのためにつくられた制度ではない」とわざわざ説明し、さらに5年間、制度を延長したことを明らかにして火消しに出ざるをえなくなった。
悠仁さまは3年前、中学に進学する際にも筑附に進学する可能性があった。結局、内部進学したのは、姉の眞子さんと小室圭さんの結婚騒動で、秋篠宮家に対するバッシングの嵐が吹き荒れ、制度利用でさらなる批判を招かないための判断があったと言われている。
小室圭さんと眞子さん
ワクチン接種に興味津々
だが、「本当の事情はたぶん違う」と前出の学校関係者はこう語る。
「中学進学の際は、男の子が2人と女の子が1人、提携校進学制度を利用して筑附に進学しています。この3人はとにかく優秀で断トツに勉強ができました。これらの生徒たちに比べて、当時の悠仁さまが勉強ができたかというと微妙なところがある。提携校制度の枠を望んでも、難しかったのかもしれません」
悠仁さまはどんな人柄なのだろうか。漏れ伝わる情報は断片的で、肉声を聞く機会もほとんどない。
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source : 文藝春秋 2022年4月号