42年前、ヘアメイクアップアーティストの仕事を始めた時から興味を持っていることがある。どのような状況の時、女性は幸せを感じるのだろう。どうしたら生き生きと輝くことができるのだろう、ということだ。
それを具現化できる方法の一つがメイクだ。私がその効果を目の当たりにしたのは、アシスタントに就いて初めて撮影に同行した時のこと。メイクを終えた女性が外見的に美しくなったのはもちろん、表情が自信に満ちたものへと変わり、瞳がキラキラと輝き出したのだ。「外見って、こんなにも内面まで変えるんだ!」と驚いたことを昨日のことのように覚えている。
この時、私の目標は定まった。「内面までメイクできるアーティストになりたい!」と。つまり内面の魅力をメイクやヘアで引き出したり輝きを加えたりできる人になる、ということである。そのためには女性たちの内なる魅力に気づき、活かせるテクニックを多く習得しなければならない。でもまだ若く、自分のことさえわかっていない当時の私にとって容易ではなかった。それでもキャリアを積んでいくうちに自分なりのセオリーができ上がっていった。
例えば、まつ毛の根元をアイラインで隙間なく埋めると瞳が大きくキラキラした印象の表情になる。頬骨の平らな部分にハイライトをのせるとパッと明るいオーラが生まれる。こうした技を一回一回の撮影現場で習得していった。
時はスーパーモデルがブームとなった90年代初頭。彼女たちの自信に満ちた美しさに女性たちは夢中になった。さらに彼女たちがメイクで変身する様子が雑誌に載るやいなや、世界中でメイクブームが巻き起こった。「私もメイクすれば同じようになれるかも」「あんな風になりたい!」という希望と願望を女性たちに与えたのだ。そして、日本では読者参加型のメイク特集が大変な人気を博した。
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source : 文藝春秋 2022年6月号