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★戦争責任さえ矛盾する社説

 ロシアのウクライナ侵攻から3カ月が経つ。米中両国をはじめ各国の利害と思惑が入り乱れ、持久戦の様相が深まる。

 こうなると読みたいのは、バランスのとれた長期展望と戦争終結に向けた提言だと思うが、いかんせん、日本の新聞はそれが不得意科目であるらしい。

 毎日の5月20日朝刊に並ぶ2本の社説が典型だ。侵攻に至る原因の認定が食い違っているのだから、戸惑うほかない。

 まず「ウクライナ侵攻 NATO北方拡大 露の対抗措置は許されぬ」と題した社説は、ロシアに責を負わせて揺るぎない。フィンランドとスウェーデンの加盟申請を受け「冷戦終結後、東欧諸国に門戸を開いた米欧の軍事同盟が、北方に拡大することになる」と書くが、「地域の安保環境を揺るがした責任はロシアにある」と断じる。

 さらに、クルド独立派の受け入れを理由に2国の加盟に難色を示すトルコに対しても「国内問題よりも、欧州の平和維持を優先してもらいたい」と、にべもない。「避けなければならないのは、北欧2カ国の加盟で、NATOとロシアの緊張が高まり、全面対決になる事態だ」としつつも、結局は「ロシアは暴挙を反省し、対抗措置を自制すべきだ」と書く。

 1本調子の「ロシア性悪説」で戦争終結への道が開けるのかと思うが、さらに戸惑うのは、すぐ下にある「米国のアジア外交 緊張招かぬ抑止と対話を」と題された社説が矛盾しているためだ。

 バイデン米大統領の日米豪印(クアッド)首脳会議出席に合わせ、アジア外交を論じる上でウクライナ危機から教訓を得ようとするが、「侵攻を阻止できなかったことは、教訓の一つだ」とし「経済制裁で対抗すると事前に警告したが、通用しなかった。米国の抑止力の低下を物語る」と言い切る。

 上にある社説を読んだ読者からすれば当然、日米側の抑止力の向上とロシアの自制を求める話に移ると思うはずだ。

 ところが、あにはからんや、話は「侵攻の背景には、米欧同盟である北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大に対するロシアの反発があった」と変わり、「敵対的な姿勢を示して過度に相手を刺激すれば、緊張が高まり、紛争のリスクも大きくなる」と書く。結局、「抑止と同時に対話を重視したアジア外交」の必要性を説くが、それを訴えたいがために侵攻に至った責任を米ロで痛み分けにするのか。

 抑止力を高めれば、反発と緊張のリスクが高まらない方がおかしい。そのバランスをとりながら中ロ両国を封じ込める具体的な戦術が問われているのに、この1本調子で戦争責任さえ左右にする論説は何なのか。新聞とテレビが展望や提言を学者頼みにするのも無理はない。

★1カ月放置で「懸念」表明とは

 岸田政権が目玉政策に掲げた経済安全保障法が成立した。重要法案なのは間違いないが、どの企業にどんな影響が及ぶのか、政府の裁量権を具体的に国会審議で詰めるべきだった。

 国会以上に情けないのがリベラル系メディア。とりわけ毎日新聞である。毎日は、同法成立3日後の5月14日に「乱用防止へ国会が監視を」と題する社説を掲載。いわく「国会が運用実態をチェックする仕組みも不十分だ。これでは、政府による乱用に歯止めをかけられない」「政府はあいまいな答弁に終始した。立憲民主などの野党はウクライナ危機を考慮して賛成に回ったが、審議が尽くされたとは言いがたい」。御説ごもっともだが、法成立までの報道を振り返ると、社説を書く論説委員は「国会が監視を」と言う前に、現場の記者に対して「国会審議の監視を」と注文をつけるべきだ。

 法案が衆院の委員会で可決した翌日の4月7日、毎日は「経済安保法案 論戦低調 与野党 早さ優先 衆院委で可決」と題する大型記事を載せた。しかし、それ以降は、目立った記事はなく、次に紙面で展開するのは1カ月以上先の5月12日。参院での同法成立を受け、一面のほか二面でも「経済安保 脱中国狙い 企業活動規制 懸念も」と大きく取りあげた。法案審議をろくに紙面で伝えていないのに、法成立後に「懸念」を列挙されても、読者は置いてけぼりだ。

 透けて見えるのはメディアとしての自律性のなさである。

 衆院が中選挙区だった時代は、自民党の派閥同士が競い合い、首相に失策があれば野党以上に自民党内から強い批判が噴出。自民党は今よりも緊張感がある政権運営を行っていた。この時代は、新聞も派閥間の衝突に着目し、自民党内の抗争を書いていれば、それが自然と権力監視となった。代わって民主党が台頭すると、自民党政権と対峙する野党第一党による政権批判を書けば、権力に厳しいポーズは取れた。

 そして「自民一強」の政治状況のなか、毎日は法案審議が深まらない責任を立憲に押し付けて「懸念も」と嘆くが、自らの権力監視の役割はどうしたのか。法案に懸念があるならば、自らの責任で国会審議の最中に堂々と論じるべきだろう。

 一方、朝日新聞は衆院通過までは毎日と歩調を合わせていたが、参院審議に入ると、識者のインタビューなどで懸念材料を具体的に掘り下げるなど、監視役としての本分を、突然思い出したかのように記事を連発した。今後も朝日が野党に依存せず、権力監視の姿勢を続けられるかも見ものである。

岸田文雄
 
岸田首相

★「空白」問題はなぜ消えたか

 乗客乗員26人が死亡、行方不明となった北海道・知床沖の観光船沈没事故。

 荒天での出航、通信手段の不備に加え、管理責任者である運航会社社長の不在など杜撰な運航管理と、それらをチェックできなかった国の不手際が次々に浮かんだが、気になったのは海上保安庁による救助活動の初動の遅れだ。

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source : 文藝春秋 2022年7月号

genre : ニュース 政治 国際 メディア ロシア