首相の好感度を問う意味、朝日「安倍顧問」の不毛さ…

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★首相の好感度を問う意味は?

 ウクライナ侵攻の後、ロシアのプーチン大統領の支持率は80%を超え、米国のバイデン大統領のそれは就任以来最低の40%を記録した。フランス大統領選を巡っても、NATO(北大西洋条約機構)軍事部門からの離脱を唱える極右派のルペン氏が現職のマクロン氏を支持率で猛追した。

 時に極端へと振れる民意にゾッとするが、悲しいかな、我が日本の新聞の世論調査は、質問自体が雑駁に過ぎる。

 例えば、朝日は4月18日付朝刊の1面で世論調査結果をこう見出しでうたう。

「ロシア軍の市民への殺害行為『戦争犯罪』 首相発言『支持』88%」

 非戦闘員への残虐行為が日々これでもかと伝えられるなか、戦争行為だとした岸田文雄首相の発言への評価をただ聞くだけなら、圧倒的な支持になるのは分かり切った話ではないか。

 意味のなさは他の質問も同じだ。

〇ロシアによるウクライナ侵攻について、岸田首相の対応を評価しますか→評価する60%、評価しない28%
〇国連が国際的な紛争を解決する役割を果たせるように、日本政府は国連改革を促すべきだと思いますか→促すべきだ82%、その必要はない11%

 単純な賛否の二元論では解き明かせないのが戦争の難しさだ。どこまでロシア封じ込めに協調できるか、日本の防衛費増額や核共有論議はどこまで必要か。詰めてほしい論点は幾らでもあるが、聞いてほしい質問だけが見当たらない。

 だいいち、国内の経済への影響が広がっても「制裁を続けるべきだ」と答えた人は68%だったと書くが、一方で、物価高により「生活への負担を感じる」とした人は57%いるとする。制裁への支持と不安が並び立つ状況なのに、それを解き明かす質問も分析もない。

 読売が4月4日朝刊に載せた世論調査結果も、日本の防衛力強化の是非だけを聞いて「賛成64%、反対27%」と書く。欧州で高まる活用論に乗じてか、「規制基準を満たした」原発の再開を尋ね「賛成52%、反対41%」と記す。結果を見越した「誘導質問」としか思えないが、それで社論を実現する根拠とするなら、プーチン政権とどこが違うのか。

 戦争の惨禍を嘆き平和を訴えるだけの社説もそうだが、なぜか日本の新聞は危機を迎えると必ず情念化し単純化してしまう。朝日の世論調査には、こんな質問まであった。

〇岸田首相の国会や記者会見での受け答えに、どの程度好感を持ちますか。

「大いに」と「ある程度」を併せ「好感を持つ」とした人は57%と過半数だったそうだ。これで朝日は権力と民意の何を浮き彫りにしたかったのだろう?

岸田文雄 (2)
 
岸田首相

★「蟻の一穴」を見過ごすな

 プーチン大統領に対する高い支持率の背景には、米国への反発、ウクライナに対する複雑な国民感情もあろうが、この異常な数字が言論統制・世論操作の結果であることは明白だ。「報道の自由」「表現の自由」が失われると、かくも恐ろしい事態を招くことを痛感した。

 3月25日、参院選ヤジ排除をめぐる民事訴訟に判決が下った。札幌市内で演説中の安倍晋三首相(当時)に対し、「安倍辞めろ」などとヤジを飛ばした市民2人が、北海道警の警察官に強制的に移動させられた問題である。

 札幌地裁は記録された動画などを根拠に「警察官の行為は、表現の自由を違法に侵害した」として道に対し、計88万円の賠償金を支払うよう命じた。

 判決は、今回のヤジについて「いささか上品さに欠けるが、公共的・政治的事項に関する表現行為」と認定。警察の聴衆規制が日常化しつつある昨今、政治家側に配慮した安易な規制はダメだと当局側にくぎを刺した。

 この判決に対する各紙のスタンスは大きく分かれた。

 朝日社説(3月29日付)は「憲法の理念に忠実な判決であり、高く評価されてしかるべき」と賞賛。毎日社説(同日付)も「『表現の自由』は、民主政治の根幹である。異論が封じられ、人々が萎縮して声を上げにくい社会にしてはならない」と歩調をそろえた。東京社説(30日付)に至っては「道警は首相に忖度したのか。市民排除に至った意図や経緯も明確に説明すべきである」と踏み込んだ。

 一方で、読売、日経、産経は、4月20日現在、社説での言及はなし。

 4月1日に道側は判決を不服として控訴しており、読売などは上級審で逆転判決の可能性もあるため静観したのかもしれない。だが、安倍、菅政権に対する論調をめぐっても、似たような図式の亀裂があったのは記憶に新しい。

 経済、福祉、外交などの政策をめぐって政権に対する新聞の論調が分断すること自体は問題ではない。国民に対して幅広い判断材料を提供するとの見方もできるし、むしろ論調が一色に染まる方が気色悪い。だが、こと「表現の自由」の問題に限っては別ものだろう。ここを譲っては言論機関の名がすたる。「蟻の一穴」ということわざがある。小さな「変化」を見過ごしてはいけない。兆候が見えれば、物を言わねばならぬはずだ。

★ドラマよりも事実を報じろ

 4月16日の朝刊。朝日と毎日に、岸田文雄首相の同じエピソードが掲載された。ワクチンの3回目接種が進まず、沖縄県のコロナ感染が収まらないとする記事。朝日は3面に「3回目『どうなっているんだ』声荒らげる首相」、毎日は五面に「首相『この数字は何だ!』」の見出しが載る。それぞれに紹介された首相の言葉は朝日が「どうなっているんだ、これは。ちゃんとやることやっているのか」、毎日が「この数字、何なんだ! やるべきことをちゃんとやってるのか」。

 官邸内での協議の様子を、両社がそろいもそろって見てきたように同じように描いている。首相秘書官や側近議員が記者に「リーダーシップが見えない」との批判を払拭しようと、首相の威勢のいい場面をリークしたのかと疑ってしまう。

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source : 文藝春秋 2022年6月号

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