★戦争報道における「国際格差」
ロシア軍の戦車隊が市街地を驀進する光景が鮮明に映ったかと思えば、ウクライナのゼレンスキー大統領が各国議会でリモート演説を行う様が流れる。まさに新旧の「戦争」がせめぎあう状況だ。
これをどう読み解けば良いか、新旧の戦いの帰趨を決めるポイントは何か。そうした補助線を引く仕事を新聞には期待するが、その点では日経が月、水、金曜付朝刊に掲載する英フィナンシャル・タイムズのコラムや記事が頭抜けている。
例えば「兵器になるネットワーク」と題された3月11日の記事を読むと、戦争が示した新しさが空恐ろしくなる。
筆者のグローバル・ビジネス・コラムニストのラナ・フォルーハー氏は、ネットによりウクライナ支援の輪が広がった戦争の新しさに着目しつつも、楽観はしていない。「銃や爆弾だけでなく様々な経済的手段が使われる」戦争になったものの、相互依存が軍事力の役割を低下させ平和をもたらすとしたジョセフ・ナイ氏ら米政治学者の近年の言説は退ける。
代わりに唱えるのが「武器化するネットワーク」というキーワードだ。「決済システムからSNS(交流サイト)上の言論の動向、供給網、ガスパイプラインといった主要なネットワーク」への「支配」が国家権力の存亡のカギを握るとみる。諸刃の剣ということか。ロシア制裁により西側諸国が直面するエネルギー問題を例に「お互いになくてはならない依存関係にあるからといって戦争が減るわけではないのだ」と警鐘を鳴らす。
18日に載ったチーフ・USポリティカル・コメンテーターのジャナン・ガネシュ氏のコラムにも、目から鱗の思いがした。「ポピュリズム 強まる逆風」という見出しから、単純なトランプ前米大統領批判かと思いきや、全然違った。
2012年の米大統領選の挿話から話を始める。注視すべきはアルカイダでなくロシアだとしたロムニー共和党候補に対し、現職のオバマ大統領が「そんな古い見方をしていたら1980年代の亡霊が現れて」云々と皮肉ったという。「ロシアを甘くみていた」のはオバマ氏に限らず、英独仏の歴代首脳も同じだったと立証してみせる。
ただ、返す刀で今回のウクライナ侵攻をこう断じるのだ。「独裁政治の倫理性が問われているというより、独裁者の指導者としての能力が問われ始めた」。電撃勝利を果たせなかったロシアのプーチン大統領への本質批判であり、「正しくなくても強い主張を展開すれば大衆はなびく」とみるトランプ氏らのポピュリズムへの徹底批判だろう。
共通するのは、過去の出来事や政治家の言葉を咀嚼しつつ今の動きを大づかみでとらえ、時代を読む補助線を読者に提供しようとするライターの姿勢だ。
いちいち挙げるのも情けないのでよすが、なぜ日本の記者は違うのか。政治家の建前の言葉や勝手に見立てた思惑を垂れ流し、撤退や休戦の訴えなどそれが出来たら苦労はしない論を並べ立てる。とんだ「国際格差」である。
ゼレンスキー大統領
★「なし崩し」をなぜ認めるのか
一方的な侵略を受けるウクライナに、日本が防弾チョッキやヘルメットなどの装備品を無償で送ることは、素朴な感情として「当然だ」と理解できる。
しかし、平和主義を追求し、「法の支配」の重要性を訴えているメディアが、政府による、なし崩しの運用変更を、指をくわえて傍観している姿は情けない。
朝日は3月9日の朝刊3面で「『装備三原則』の指針変更 防弾チョッキ提供へ規定追加」と見出しを立てた。
装備三原則とは「防衛装備移転三原則」のこと。武器の輸出を禁じた「武器輸出三原則」の後継原則で、紛争当事国への移転や国連安保理決議に違反する国への輸出を認めない。防弾チョッキやヘルメットも適用されるが、輸出国について「米国を始め我が国との間で安全保障面での協力関係がある諸国」に限定されている。このため、今回、輸出国の項目に「国際法違反の侵略を受けているウクライナ」と新たに加えた。
記事は、このことを淡々と伝えただけの薄味。辛うじて、「三原則が形骸化することはない」と記者団に語った岸信夫防衛相の口を借りて「朝日の記者は形骸化の可能性を心配しているぞ」と問題をにじませた程度だった。
確かにウクライナに何らかの援助はしたいのが人情だ。しかし、今回の政府の決定方法はあまりに場当たり的だ。時の政権が輸出国の名前を記せば、あらゆる国に武器を輸出できる「無原則な原則」になった。民主的コントロールを担保する国会での審議も不十分だ。
にもかかわらず、朝日は「ウクライナ=善、ロシア=悪」という世論が支持する対立構図に少しでも違えることを書けば、総スカンを食うと思ったのか。
2011年12月の社説では、民主党の野田政権が武器輸出三原則を緩和する際、「三原則を緩和するな」と釘を刺した。安倍政権で防衛装備移転三原則に変更する際にも「武器輸出緩和 平和主義が崩れていく」と題して、「こんな『なし崩し』を、認めるわけにはいかない」と拳を振り上げていたのだが。
同じくリベラル系の毎日も、今回は音無しだ。
「ウクライナなら輸出もやむを得ない。防弾チョッキやヘルメットなら、なおさら仕方ない」と思っているのかもしれないが、感情に左右されがちな世論と同レベルと言わざるを得ない。
野田氏
★「異例」連発の気味悪さ
戦後すぐに封切られた「春の珍事」という米国のコメディ映画があった。木材に反発する液体を偶然発明した化学者が奪三振を武器にメジャーリーグへと殴り込む、といった荒唐無稽な話だ。
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