★軽過ぎる「ご都合主義」
載せただけでも立派だと思う一方、載せただけで終わりかとも思う。
北京冬季五輪の最中の2月16日、朝日が朝刊のスポーツ面に載せた杉本龍勇法政大教授のインタビュー記事である。
見出しにまず驚いた。「五輪 崇高さより“軽さ”感じる 選手価値高める発想 メディア欠く」と、矛先を五輪報道に定めて揺るぎない。なにせ、バルセロナ五輪の陸上400メートルリレーにアンカーとして出場し6位入賞した当事者の言だけに説得力がある。以下の如し。
「五輪に出ている側からすると崇高な場であっても社会の評価としては消耗品。スポンサーの広告ツール、そしてメディアのコンテンツとして瞬間的に視聴率を稼ぐための材料となっています」
「それぞれに閉塞感を抱えたコロナ下では特に、演出はいらない。(中略)(選手が)どれだけ歯を食いしばってやっているか、プレッシャーに耐えているか、コロナ下だからこそ、伝わってくるといいなと思うのです」
感動話やお涙頂戴話などの「お祭り紙面」一色となった最中のいわば「内部批判」だ。だいいち、当の朝日の11日朝刊が「演出過多」そのものだった。
フィギュアスケート男子で、銀の鍵山優真、銅の宇野昌磨を差し置いて、4位に終わった羽生結弦の「感動話」を1面のトップ記事にし、「4回転半 一番近づけた」と、思い入れたっぷりの見出しを立てた。五輪特設面の見出しも「僕なりの4回転半はできたかな」と同工異曲で、社会面も「震災が結んだ感謝」と、東日本大震災の被災者との触れ合いで記事をつくっている。
もっとも、他紙も「羽生 被災地の支え 渾身の滑り『感謝』」「『コーチのため』宇野開花」(毎日の社会面)など似たり寄ったりだから、感動を押し売りする悪癖はいずこも同じである。
杉本教授の記事は、もっと本質的な内部批判だった気もする。朝日を筆頭に中止論が渦巻いた昨年夏の東京五輪を振り返り、冷静にこう評価するからだ。
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source : 文藝春秋 2022年4月号