★参院選後にただよう空虚感
参院選の後、いつにも増して締まりのない新聞紙面が続いている。勝利のお陰で岸田文雄政権が当分衆参選挙のない「黄金の3年間」を得たと書かれるとそんなものかと思うが、それで新聞が緩んでは元も子もない。
例えば朝日の社説がそうだ。
さすがに投開票当日の7月10日朝刊の社説は、凶弾に倒れた安倍晋三元首相の事件を「民主主義へのあからさまな挑戦」と断じ、選挙戦を再開した各政党に対し「覚悟を示した政界の決意を全面的に支持する」と唱えた。表題も「自由を守る、選択の時」といつになく格調が高い。
ところが、結果が与党の大勝に終わると、翌11日の社説は一気にトーンダウン。今更のように岸田首相が「明確な処方箋」を示さなかったと責め、「フリーハンドを得たなどと思われては困る」と書く。
選挙前から「黄金の3年間」の到来を書いてきた新聞に「困る」と書かれても読者が困る。これではいくら「数を頼んで拙速に結論を求めることは許されない」と要求し、「民主主義 実践が問われる」と表題で掲げても、空々しいだけだ。
空虚感は、翌12日の「低迷する立憲 敗北総括し足腰強化を」と題した社説も似たようなものだ。
立憲民主党に対して仰々しく「党再生への地道な取り組みに、一層力を注ぐ必要がある」「有権者の支持が広がらなかった理由を探らねばならない」などと書くが、問題は「取り組み」や「理由」の中身ではないのか。だいいち、敗因を探るのが新聞の仕事だろうに。
中身のなさは14日の「女性当選最多『均等』へさらに努力を」と題した社説でも際立つ。各党を比較した上で「『均等』の理念に程遠かったのが自民党である」と断じ、世界経済フォーラムのジェンダーギャップ報告書に基づき女性の社会進出の度合いが「下位にとどまった」日本を嘆く。常套手段ではあろうが、結局は比率にのみ依拠した提起の域を出ていない。
もっとも、他紙も似たり寄ったりだ。来た球を打ち返すだけで、新味のある提起をしようともしない。
この間、筆者が唯一、目から鱗の思いがしたのは、西日本新聞meが17日に配信した久米晃・元自民党事務局長のインタビューだ。
立民の参院選敗北の真因は昨秋の衆院選後にあったとし、共産党との選挙協力に敗因を求めた「総括が間違っていた」と断じた。日本維新の会にも「躍進とは言えない」「地方政党から脱皮できていない」と冷ややかだ。さらに「黄金の3年間」論に対しては「ずっと平穏で、内外の情勢も安定しているということはあり得ない」と切って捨てた。
さすが「選挙の神様」と呼ばれただけの人だとは思うが、こうなると新聞記者は出番なしだろう。
岸田首相
★「コロナ感染」報道に戸惑う
月日がたつのは早いもので、あの「東京五輪の夏」からこの7月で1年になった。ただ、覚えているだろうか。開催のほんの2カ月前の5月、コロナ禍を巡る緊急事態宣言が続いて世情とメディアは騒然とし、朝日が社説で「五輪中止」を高々と掲げたことを。
今もまた、7月21日の各紙朝刊はこぞって、国内の新型コロナウイルス感染者が初めて15万人を超え、大阪や神奈川、愛知、福岡など30府県で過去最多となったことを一面で伝えた。
読売も、今年に入ってからの感染者と重症者の推移をグラフにし、特に直近の感染者数の急上昇ぶりを際立たせた。警鐘を鳴らす上では当然の紙面づくりと思うが、一面に紹介のある「28面」、つまり社会面の関連記事を読むと、戸惑うしかない。
「急拡大 沖縄の病床逼迫 医療従事者 欠勤目立つ」「救急搬送困難 前週比43%増」といった関連記事に違和感はない。都市部の知事らが警戒感を強めつつも「行動制限」に「慎重な姿勢」を崩していないとの指摘を含め、抑えの効いた警鐘となっている。だが、それであればこそ、その下の「巨人 38人が陽性 一軍選手14人 菅野投手ら」との記事が解せない。
記事は、読売巨人軍の発表に基づいて陽性判明に至る経緯と、菅野投手と岡本和真、丸佳浩、中田翔の「主力」3選手も含まれていると書くが、そこまで。観客を含めた感染拡大の危険性や今後の試合続行の可否など、議論されて然るべき論点に触れようともしていない。
ただ、巨人軍の「親会社」だけを責めるのは酷だろう。朝日はスポーツ面で「菅野・岡本和・中田……多数の巨人選手陽性」と読売と足並みを揃えた。日経も面は同じで「巨人・大勢らコロナ陽性」とクローザーの名前を挙げ、広島や阪神、日本ハムの状況も付け加えたが、それ以上の踏み込みがないのは同じだった。
これは何だろう。結局は、昨年と比べてもコロナ禍の深刻度はさほどでもないと思っているということか。
あるいは、「コロナ」はもはや、政権批判と支持を巡る一大論点にはならないと見切ったか。21日の社説のテーマも、「節ガス」「藤井棋聖」(産経)、「世界経済の悪化」「羽生選手の競技引退」(毎日)といった案配。朝日社説は前日、標的を故安倍晋三元首相の「国葬」に乗り換えていた。
★「国葬」社説、遅きに失した
岸田首相が、安倍元首相の「国葬」を実施すると発表したのは7月14日の記者会見。翌15日の朝刊各紙は一面で報じたが、各社の社説には国葬の是非に関する論評は掲載されなかった。会見は午後6時から。十分な社内討議が必要な問題であり、15日朝刊に間に合わないのは仕方ないとも言える。
しかし、16日朝刊にて全国紙で取り扱ったのは読売と毎日の2紙だけだった。
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