「終戦の日」首相式辞は岸田カラー? リベラル系2紙が真逆評価の理由

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★安倍・菅と岸田、なぜ扱いが違う

 参院選の勝利からわずか1カ月後に岸田文雄首相の運命が突然暗転したのは、不思議でも何でもない。誰に頼まれたわけでもないのに、首相は9月に予定していた内閣改造と自民党役員人事を1カ月、前倒しした。旧統一教会とのしがらみを清算しようとしたのはみえみえだったが、それなら企画倒れも甚だしい。閣僚や党三役ら新メンバーに選挙支援や会合出席などの「接点」が次々と発覚して、かえってしがらみの根深さと首相の鈍感さが白日の下に晒されただけに終わった。

 ところが、鈍さでは新聞の追い込みも五十歩百歩である。8月10日の改造直後に緊急の世論調査を行ったのは、読売と共同通信、日経の3社ぐらい。それぞれ内閣支持率は6ポイント減、3ポイント増、1ポイント減と様々だったが、おしなべて首相が反転攻勢を狙った改造効果がなかったのは明々白々だった。

 他紙の追撃を心待ちにしたが、調査の好機だったはずの2回の週末は肩透かしに終わる。ようやく毎日が22日朝刊の1面トップで「内閣支持16ポイント急落 36%」「『自民と旧統一教会 問題ある』9割」との調査結果を載せたが、隔靴掻痒感は否めない。

 数字を延々と並べるだけで、この「急落」がどれほど岸田政権の危機を意味するのか、の記述がない。1日遅れで翌朝刊に「政権、支持急落に警戒感」との続報が載ったが、首相の「聞く耳」がまがいものだとバレた事態に対して「警戒感」程度で済むのだろうか。

 ネットで毎日の過去記事を確認するとこれが全然違う。一昨年の5月に安倍晋三内閣の支持率が今回と似た下落幅を記録した時はこうだ。4月調査の44%から27%へと急落したことを受け「支持率、1カ月半で17ポイント減」としたうえですかさず、「27%ショック『底打った』『危険水域』与党動揺」との追撃の関連記事を載せている。

 同年12月に菅義偉内閣の支持率が「17ポイント」急落した際も、「内閣支持急落40% 不支持49%、初の逆転」とし、「『にやにやして危機感ない』『発信力ない』 支持率急落、首相に党内から不満噴出」と足元の動揺を活写している。

 なぜ、安倍、菅両政権と岸田政権とでこうも扱いが違うか。野党の政党支持率が上向かず、近々に衆参選挙が見込めないため、政変はないと思うのか。まだ岸田首相の「聞く耳」に期待するのか。

 世論調査を政権打倒の道具にし過ぎる問題点はあろうが、突然それを反省したわけでもあるまい。だいいち、安倍、菅両首相に関しては、後に退陣へとつながった世論の離反という潮目の変化を速報できたのではなかったか。新聞が敏感さという長所を失くしてどうする。

★首相の式辞に「真逆の評価」

 スクープにはいくつか種類がある。

 政府や警察などが発表する内容を事前に報じるものは、ニュースが出た数日後、場合によっては数時間後に発表されるため、ネット時代の今、価値をほぼ失った。一方、報じられなければ歴史の闇に埋もれるスクープは今も貴重だ。典型例は、2000年の毎日による旧石器発掘捏造事件。報道によって教科書の内容が変更され、世を揺るがした。

 もう1つある。事実の価値付けだ。「視点」の特ダネと言える。例えば、同じ県庁の発表内容を、ある新聞は地方版のベタ記事で、もう一方は1面トップで報じるようなケース。「終戦の日」に行われた全国戦没者追悼式での岸田文雄首相の式辞をめぐる8月16日の記事も、視座の違いが如実に表れた。

 毎日は朝刊1面で「首相『歴史の教訓』に言及」の3段見出し。式辞のうち「歴史の教訓を深く胸に刻み、世界の平和と繁栄に力を尽くしてきた」と言及した部分に着目し、「2019年の安倍晋三元首相以来3年ぶりに第二次世界大戦の『教訓』に言及した。党内リベラル派の自民党岸田派を率いる首相は3年ぶりに言及することで『岸田カラー』をにじませた」と高く評価した。

 朝日は3面。「首相式辞 前政権と8割超同じ」との見出しで「全体の8割以上が前年の菅義偉前首相の表現と一言一句同じだった。残りも安倍晋三元首相の式辞を踏襲した部分が目立ち、『岸田カラー』の見えない中身となった」と断じた。「約660字の式辞のうち、文節の8割超は菅氏と同じで、19、20年の安倍氏も含めると9割超で表現が重なった」と客観的な数字で分析した。

 真逆になったリベラル系の二大紙の評価。毎日も「式辞の大部分については、安倍氏の20年、菅義偉前首相の21年の式辞の内容を踏襲した」とも書いてはいるが、申し訳程度にとどまっている。

 これは明らかに朝日の視点に軍配が上がる。毎日の記者は、「岸田カラー」を首相側近から聞きつけ、あえて「安倍・菅路線」との違いを強調したかったのだろうか。「違い」への着目はニュース作りの基本だが、たった1つの違いにとらわれ、「9割超」の丸写し部分を軽視するとは、大局を見失っている。

 朝日にも問題がある。細田博之衆院議長と尾辻秀久参院議長の追悼の辞に全く触れていないのだ。「母も戦死したと思う。戦争がなければ、早く死ぬこともなかった」などと、自前の言葉で語り尽くした尾辻氏のあいさつはネット上で話題になった。日頃は政府与党に対し「国会軽視」と非難する朝日だが、この不掲載は「国会無視」と言われても仕方ない。

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source : 文藝春秋 2022年10月号

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