斯界をリードする研究者が語る恐竜発掘の興奮と教訓
私が「恐竜の骨かもしれない標本があるので見ていただけないか」というメールを受け取ったのは今から6年前、2011年9月のことでした。送信者はむかわ町立穂別博物館(北海道)の櫻井和彦学芸員。添付の写真データを開いた瞬間、思わず椅子から立ち上がりました。一目で恐竜の尾椎骨だとわかったからです。同時に、「やっと出たか」という感慨がわいてきました。というのも私は、日本で恐竜を研究するなら、将来的には北海道と九州が重要なフィールドになるという思いで、05年に北海道大学に赴任してきたからです。私にとってそれは、自分の仮説を裏づける待望の化石でした。
しかしそのときはまだ、これが恐竜研究の分野にとどまらず、古生物学史上でも歴史的な発見につながるとは思ってもみませんでした。
今年4月、恐竜ファンならずとも、古代に思いを馳せてしまうビッグニュースが報じられた。北海道・むかわ町で発掘された恐竜化石(通称「むかわ竜」)が、体長8メートルを超える国内最大の全身骨格になると判明したのだ。
むかわ竜は、北海道中軸部に分布する函淵層群(8000万年〜6500万年前)という地層のなかでも約7200万年前の堆積層から発掘された。恐竜の種類としては、白亜紀後期(約1億年〜6600万年前)に大繁栄した植物食恐竜のハドロサウルス科に属すると推定される。その時期に生息した植物食恐竜の全身骨格が見つかったのは国内初。しかも当時、北海道がある場所は海であり、ハドロサウルス科の全身骨格が海の地層から出たのは、1934年に樺太で発見された「ニッポノサウルス」を含めて世界で3例目。
この発掘調査で中心的な役割を担ったのが、北海道大学総合博物館の小林快次准教授(45)である。
むかわ竜を最初に見つけたのは、堀田良幸さんという地元の化石収集家です。後に聞くと、それは03年春のことですから、私のもとにメールが届くまで8年もかかったことになる。でも、むかわ竜が海の地層に眠っていた7200万年の歳月に比べれば、ほんの一瞬でしょう(笑)。
堀田さんが林道を散歩していると、ふと見上げた斜面に灰色のノジュールがいくつか顔を出していたそうです。「ノジュール」というのは岩の塊で、古代生物の化石がそのなかに入っていることがあります。
「つづきはどこに?」
堀田さんはラグビーボールほどのノジュールを7個見つけ、顔見知りだった学芸員の櫻井さんに知らせました。でも、博物館に運んで調べたところ、「よくわからないけど、たぶん首長竜の尾だろう」と標本入れの奥に仕舞い込まれてしまった。他の化石に比べて、研究の優先度は低いと判断されたのです。
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source : 文藝春秋 2017年09月号