さっきまで、ひきこもりの人の家族会に出ていました。いつもの倍の人数が参加していて、みんなとても不安そうな表情でした。ひきこもりの子をもつ親は、年配の人が多いので、あのような事件が続くと、とても他人事ではいられないのです。
一方ひきこもりの当事者には、メディアの「死ぬなら1人で死ね」という発言を聞いて、「要らない存在だと思われているから、私も死にたい」と感じた人がいます。「自分も、親から殺されるんじゃないか」という懸念を抱いた人もいます。非常に憂慮すべき状況です。
ひきこもりは「犯罪者予備軍だ」とか「危険な人物だ」という風評はまったく当たらないことを、この問題に20年以上関わってきた私は、強く訴えたいと思います。
5月28日、神奈川県川崎市で、登校中の小学生ら20人が刃物で斬りつけられ、2人が殺害される通り魔事件が発生。その場で自殺した岩崎隆一容疑者(51)は、80代の伯父伯母と3人暮らしで、長い間ひきこもりを続けていたと報じられた。
4日後の6月1日、東京都練馬区で、元農水省事務次官の熊沢英昭容疑者(76)が、自宅にひきこもっていた長男の英一郎さん(44)を刺殺する事件が起こった。家庭内暴力を受けていた熊沢容疑者は、「矛先が子どもたちに向いて、危害を加えてはいけないと思った」などと殺害動機を語ったという。
小誌は前々月号にも、筑波大学・斎藤環教授(社会精神保健学)のインタビューを掲載した。3月末に内閣府が、初の全国調査の結果から「40歳から64歳のひきこもりが全国に61万3000人いる」という推計値を発表し、「中高年のひきこもり問題」がにわかに注目を集めたためだ。
ふたつの事件の当事者は、まさに中高年のひきこもりだった。
事件の状況や経緯については、報道された内容からの推測を交えることをお断わりしておきます。
まず、川崎の事件です。本人が死亡したため精神疾患があったのかどうか確認できませんが、通常のひきこもりと決定的に違うのは、家族関係です。両親の離婚を機に伯父伯母夫婦に引き取られ、実子とは区別されて育ったそうです。伯父伯母とは顔を合わせないようトイレや食事にルールを作り、長い間孤立状態で生活していたと報じられています。
「俺の人生は何なんだ」
川崎市の会見によると、伯父伯母夫婦は、一昨年11月から市の精神保健福祉センターに14回も相談をしていました。高齢になったため訪問介護サービスを受けたいが、自宅に他人が入った場合に甥がどう反応するかを心配していたのです。終活を考えるに当たって、甥のケアが心残りだったのでしょう。
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source : 文藝春秋 2019年8月号