先日、都内でタクシーに乗って運転手と雑談をしていると、最近の日中関係の話になりました。その運転手は、「尖閣諸島の問題もあるし、中国を1回ガツンとやらなきゃダメですよ」と言うのです。びっくりしておもわず「日本が戦争するなんて無理でしょう」と返すと「短期戦で頑張って、しばらくすれば、アメリカ軍が来てくれる」「雑誌や本なんかには、そういうことがたくさん書いてありますよ」。お客さんわかっていませんね、といった口調で、その運転手は熱心に説明をし続けてくれました。
私は、やり取りしながら、75年前の12月8日の太平洋戦争(大東亜戦争)開戦時の勇ましい言葉を連想していました。開戦の翌日、新聞は「米英膺懲(ようちょう) 世紀の決戦!」(「朝日新聞」昭和16(1941)年12月9日)と見出しを付けて、その興奮を伝えました。「膺懲」とは懲らしめるという意味です。
その頃の日本人は、アメリカやイギリスを「悪者」と決めつけ、彼らと戦う自分たちを「正義」だと考えました。形こそ変わりましたが、この頃、日本では同じような決めつけが、立て続けに起こっていると感じています。
たとえば、平成26(2014)年に「慰安婦報道検証」で誤報を認めた朝日新聞、平成28(2016)年に政治資金問題を起こした舛添要一前都知事や豊洲市場移転問題の石原慎太郎元都知事なども「悪者」として集中攻撃されました。最近では、不倫をした芸能人もインターネットなどで「炎上」というバッシングにさらされています。
人々やメディアは自分たちを「正義」と考えて、一方的に「悪者」を攻撃します。一度、攻撃の気運が高まれば、雪だるま式に攻撃に参加する人が増えていき、誰も止めるものがいなくなるのです。これは、あの戦争の時代の日本人とちっとも変わっていません。
昭和16年当時、好転しない日中戦争(支那事変)や国際的な孤立を打破すべく、日本が選択したのは、アメリカやイギリスとの戦争でした。
真珠湾の成功で判断力がなくなった
太平洋戦争は、昭和16年12月8日、日本軍による真珠湾攻撃から始まり、3年8カ月にわたって続きます。国家としての存亡をかけたこの戦争を、私は5つの期間に分けて理解するようにしています。
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source : 文藝春秋 2017年01月号