「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをし、誰も書かない本を書く」とのポリシーを掲げ、謎の国・ソマリランドに潜入したり、アジアやアフリカ各地の納豆を調査したりと、辺境地を旅してきた高野秀行氏。取材先へ向かう前に必ずその地域の言語を学ぶというが、これまで学んだ言語は25以上にも及ぶ。本書は、そんな著者の数々の言語体験をまとめた一冊だ。
「最も思い出深いのは、大学時代のアフリカ・コンゴへの探検です。コンゴの公用語はフランス語ですが、それに加えて、共通語であるリンガラ語も事前に勉強しました。これが大成功。リンガラ語を話せる外国人は相当珍しかったようで、片言だけでもバカ受けでした。どこに行っても人だかりが出来るほど。コミュニケーションをとるためのフランス語と、仲良くなるためのリンガラ語。この二刀流でコンゴ遠征を乗り切った経験は、僕にとってターニングポイントでした」
高野氏にとっての言語は、探索先で現地住民と親しくなるための「唯一無二の武器」となった。
「たどたどしくてもいいから、現地の言葉を頑張って話そうとすると、それほどまでに自分たちに興味を持ってくれているのかと、相手は喜んでくれるものです。『この人、バカかもしれないけど、いい人なんだろうな』って(笑)。近所の噂話だとか、自分の事業の近況だとか、聞いてもいないのに様々なローカルネタを教えてくれるんですよ」
ただ、この武器には欠陥が……。
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source : 文藝春秋 2022年11月号