反日デモに参加して、布団の中で日本の漫画を読む。中国の若者の実像とは——
いま中国と日本は、政治的にはかつてないほど悪い関係にあると言わざるを得ません。しかし、中国の若者たちは、実は日本に対して熱い関心を寄せていることを、みなさんはご存知でしょうか。
私は大学教員の傍ら、ある中国の雑誌の主筆を務めています。コンセプトは日本文化の紹介で、一冊ごとに一テーマを決めて、できるだけの情報を網羅した“事典”のような月刊誌です。各特集には、歴史や分類が一目で分かる、「文藝春秋」の折り込み目次のようなページを設けています。二〇一一年に創刊し、既刊二十一冊(二〇一四年六月現在)、取り上げたテーマは、漫画、制服、美術館、猫、鉄道、妖怪、禅、断捨離、明治維新、設計力等々、多岐にわたります。文化、芸術、歴史、ライフスタイルと、いわば読者が面白いと感じてくれるテーマなら何でも取り上げますが、政治情勢や社会問題を扱わないことと、広告を一切掲載せず、広告収入に頼らないことは、創刊時から一貫した編集方針です。本や雑誌が売れないと出版業界の嘆息が聞こえるなか、初刷五万部、ネットの予約状況に応じて増刷する体制です。B5判、約二百頁、価格は三十五元(約五百七十円)。この値段は、中国ではホテルでランチが食べられるほどで、安くはないにもかかわらず、これまでの売上最高記録は五十万部です――。
私がこの話をすると、聞く人は一様に「そんな雑誌ありえない」と信じようとしません。仰るとおり、“日本では”ありえなかったでしょう。中国人が中国人のために中国で作ったから、売れたのです。すると、さらに驚いた表情になります。「え!? 中国は反日一色なのでしょう……?」
日中関係が悪化し、世論調査で両国民の八割以上が相手の国を「嫌い」と感じている時代に、制作した私たちでさえ驚くほど売れている雑誌。それが、『知日』です。
毛丹青氏は、一九六二年北京生まれ。北京大学卒業後、一九八七年に来日し、三重大学に留学。その後、中国人の新鮮な視線で日本の田舎の原風景を描いた『にっぽん虫の眼紀行』(文春文庫)を上梓。日本在住二十七年、日中両国で文筆活動を続けている。また、二〇一二年にノーベル文学賞を受賞した中国人作家・莫言氏との交遊も深い。
日中の文化交流にも尽力しており、日本人青年と、病と闘う中国人女性の純愛を描いた『恵恵(フィーフィー) 日中の海を越えた愛』(小社刊)の編集に携わった。現在、神戸国際大学教授。
出会いは二〇〇八年初頭。北京で開かれた私の出版記念講演会に、一人の青年が目を輝かせて聞きに来ていました。当時、北京のある出版社で編集者をしていた蘇静君、二十六歳。聞けば、私の著書『にっぽん虫の眼紀行』の中国語版を読み感銘を受けた、という。「中国の日本に対する理解はこれまでと比べ物にならないほど深い時代になっている」と話すと、彼は言いました。
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source : 文藝春秋 2014年08月号