必要なのは我慢強さと責任を取る覚悟──名投手コーチ二人が語り合う「監督の器」とは
(構成・渡辺勘郎)
権藤 今日は、昨年オフに退団した元・投手コーチ二人で、監督論を話せということなんですが、まあ、私は中日ドラゴンズをクビになりましたけれど、吉井は自分から辞めたんだよね。
吉井 近鉄時代の恩師である権藤さんとお話ができて光栄です。僕の場合は、北海道日本ハムファイターズに五年間お世話になりましたが、二人の監督の下で投手コーチを経験し、野球観の違いも感じて、そろそろ外の世界で勉強しようという気持ちになりまして……。
権藤 その野球観の違いというのを今日は話そうじゃないか(笑)。
権藤博氏(74)は一九六一年中日ドラゴンズへ入団、エースとして活躍するが、「権藤、権藤、雨、権藤」と言われるほどの登板過多で、肩を痛め野手に転向。現役引退後は、中日、近鉄、ダイエーなどで投手コーチを歴任し、九八年には横浜ベイスターズの監督として日本一に輝く。昨年は中日の投手コーチを務めた。吉井理人氏(48)は八四年近鉄バファローズ入団。権藤投手コーチのもと才能を開花させ、九八年から〇二年までは、米大リーグで活躍。〇八年から日本ハムの投手コーチを務め、ダルビッシュはじめ強力投手陣を率いた。「教えない教え」(権藤)、「投手論」(吉井)の著書がある理論派の二人でもある。
権藤 高木守道監督は、ミスタードラゴンズと呼ばれた天才内野手ですが、天才が指導者になったときにありがちな厳しさがありました。選手に対して「なんでこんな簡単なこともできないんだ」と思ってしまい、その怒りを表に出す。投手が打たれ出すと、すぐ「代える」となって、私が「もう少し我慢しましょう」と言うと「いかん」。ちょっと間を置いて、「もう少し引っぱりましょう」と言うと、また「いかん」。監督が二度も言うのなら仕方ない。投手交代の権限は監督のものだから。そんな日々でした。
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source : 文藝春秋 2013年09月号