妖艶な歌唱でファンを魅了する「ジュリー」こと沢田研二(74)。1979年には「太陽を盗んだ男」で原爆を自作するテロリストを怪演し、映画ファンを熱狂させた。監督の長谷川和彦氏はその男気を目撃した。
原爆犯を追い詰める警部を(菅原)文太さんが演じた。主役に悩んでいたオレに「監督、ジュリーなんかどうだ」と言ってくれたのは文太さんだ。沢田も「ダイナマイトでなく原爆なのがいい」と面白がってくれた。
あの頃の印象は、悠木千帆(樹木希林)がドラマで「ジュリ〜!」と叫んだようなアイドルっぽいニュアンスだ。オレが脚本を書いたドラマ「悪魔のようなあいつ」でも、久世光彦さんの演出した3億円強奪犯は、あの甘ったるい呼称を裏切らなかった。
実際の沢田はすごく男らしいヤツだ。オレなんかよりずっと。サリー(岸部一徳)とも親しくしていたが、周りの連中に「ジュリー」と呼ぶヤツは1人もいなかった。「太陽」での沢田は実に見事に役を掴んでくれた。ヤツもどっかでジュリーから逃げ出して、新しい沢田研二をやりたいという思いがあったんじゃないかな。
原発からプルトニウムを盗む前、アパートの屋上の塀の縁でタバコを咥えてスクワットしたり、うさぎ跳びをする場面。塀の幅は30cm。落ちたら大事だ。「ヤバくて面白いぞ」と言うと、「大丈夫っすよ、これくらい。死にやしないよオレは」なんて冗談めかして笑っていた。
原爆を腹に隠し、妊婦に扮して国会議事堂に入る場面。あれは本当にうまくいったよな。盗み撮りだから、実際に国会の門番が対応したが、沢田は堂々としていて気持ちがいい。「面白がる」という役者の基礎能力が、沢田は突出している。あのおとぼけが、ヤツのいいところだ。
主人公は原爆を作る過程で被曝し、ラストシーンで抜け落ちた髪をフッと吹く。没にされたが、原題は「笑う原爆」だ。原爆に泣く映画はゴマンとある。だが原爆を作ったのも人間なら、被害に遭うのも人間だ。母親の胎内で被曝したオレの関心はそこにあった。そういう人間トータルを、沢田とは共有できたと思う。
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source : 文藝春秋 2023年1月号