ダジャレ好きな「ガハハおじさん」としても知られた元NHKディレクターの和田勉(1930〜2011)。彼の作品に10年にわたり出演し続けた俳優・山﨑努氏が、間近で見た和田の“観察眼”について語る。
和田勉さんの作品に僕が出演したのは、ドラマ「ザ・商社」が最初だ。マイペースな和田さんと、喧嘩っ早い僕。当初、2人は衝突するにちがいないと周囲は心配したようだ。だけど不思議なもので、実に気が合った。
「ザ・商社」で特に印象に残っているのは、物語の最後。石油危機に直面し、カンバイチャンスの製油所に立ち尽くした主人公の僕が、「Are you Japanese?」と声をかけられ、「No」と答える。和田さんは「No―!!」と叫んでくれませんかと言った。僕は、叫ばず「No」と言う方が、迫力が出ると思い、意見が分かれた。そこで2通りの演技を見せると、僕の意見が採用されたことを思い出す。
改まって演技論を交わすようなことはなく、以心伝心で通じていた。
演出の特徴は、何と言っても「アップのベン」と言われるほど、人物のクローズアップが多いこと。人間に対する興味が強かったから、自然と近づいていったのだろう。彼は物語以上に、生身の人間の魅力、面白さにフォーカスを合わせていた。
ある日、みんなで食事をしていると和田さんが、一緒にいた女優さんの口元を凝視していた。理由を聞くと、「右か左か、噛む方の横顔に生活感が出る」と話していた。ユニークなアプローチだ。和田さんは、ロマンチックなカットを撮るときは、噛まない方の横顔がいいと言った。
一緒にバーで飲むときや、食事をするとき、和田さんは何かとメモを取った。コースターや紙ナプキンの裏にまでメモを書き、ポケットいっぱいに詰め込んだ。そんな和田さんの影響を今でも受けている。
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source : 文藝春秋 2023年1月号