気品溢れる装いの裏には、やんごとなき「皇族意識」がある
私が朝日新聞で仕事をしながらファッションを取材し始めたのは1970年代の後半だった。当時はファッションというと「女、子供のおしゃれの話」と敬遠されて、せいぜい家庭欄で「今年はスカート丈がもっと短くなる」などと紹介される程度。だが、世界的には米国でウーマンリブ活動が全盛となり、女性のライフスタイルや、経済・文化・社会風俗としてもファッションが盛り上がっていく面白い時代だった。あれから50年、ファッションは変容し、常識は覆され、タブーは取り払われ、ファッションはついに家庭欄を飛び出し一面を飾るようになった。
そんな時代のうねりの中で、常に格調高く、日本の美を世界に向けて表現してきたのが、「皇室ファッション」だ。多くの女性が憧れるこの日本独特のジャンルを確立したのが、上皇后・美智子さまであるのは論を俟たない。
「あのかたの感性は一種独特なので、予想がつかないので困るのよ。特に洋の喪服の場合は、帽子だけでなくヴェールのこともありますからね」
2004年に亡くなった高松宮妃喜久子殿下が私にこう話されたのは、1989年のことだった。それまで皇室ファッションを牽引してこられた妃殿下であり、徳川家の血を引くセレブ中のセレブ。昭和が終わり、皇族方がお召しになった喪服について私は喜久子さまに取材する機会を得たのだった。喜久子さまがおっしゃった「あのかた」とは、他ならぬ美智子さまのことだ。
美しすぎた喪服の美智子さま
1989年1月9日、昭和天皇が亡くなられた翌々日、即位後朝見の儀で、美智子さまは黒のロングドレスにウエストまでの長いヴェールをつけられていた。ヴェールの縁とドレスの裾には、黒のサテンがあしらわれている。
日本の皇族のお召し物は明らかに英王室をお手本にしてきた。こうした黒い喪服のドレスがまさにそうで、女性の間に黒い喪服を流行らせるきっかけを作ったのはエリザベス女王の高祖母にあたるヴィクトリア女王(1819〜1901)だ。夫君アルバート殿下の葬儀で黒ずくめのロングドレスをお召しになった。
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