宗教二世救済に今すべきこと

変わりゆく日本社会

紀藤 正樹 弁護士・消費者庁霊感商法等対策検討会委員
ニュース 社会
紀藤正樹氏

 2022年7月8日、参議院選挙の街頭演説中に安倍晋三元首相が銃撃されるという世界を震撼させる事件が発生した。容疑者の犯行動機には世界基督教統一神霊協会(現「世界平和統一家庭連合」、以下「統一教会」)への恨みがあり、容疑者がいわゆる「宗教二世」であることが明らかとなった。その後、統一教会の霊感商法や高額献金、家族被害などの実態が次々と報じられ、政治への浸透、民主主義の在り方、国の形の問題にまで発展し、日本社会に大きな波紋を呼んでいる。

 女優の桜田淳子さんらが合同結婚式に参加したのは1992年。この時期、統一教会問題が大きく報道されたにもかかわらず、なぜその後、統一教会の被害を根絶できなかったのか、なぜ風化が生じたのか。この「空白の30年」は、宗教二世の30年でもある。テレビ等でインタビューに答える宗教二世は20代から40代。この間、統一教会問題が放置されてきたことは宗教二世の被害者らにとっては悲劇的ですらある。

宗教二世問題を訴える小川さゆりさん ©時事通信社

 日本は1995年にオウム真理教による地下鉄サリン事件も経験している。約30年間に、カルト的宗教団体に関係する大事件が2回も起きた国は世界に例がない。地下鉄サリン事件後、米上院議会は1995年10月に議会報告書を作成し、フランスも同年12月、国民議会報告書をまとめ、2001年には反セクト法を成立させた。ところが当事者の日本は、地下鉄サリン事件がなぜ起きたかの検証すら国会で総括せず、カルト問題に対する抜本的な対策を講ずることなく現在に至っている。

 日本は、宗教被害の救済が、刑事規制上も行政規制上も異例に野放しにされてきたという背景があり、そのため被害者の自助的努力により諸外国に比べて民事救済の判例群を多数生じさせた。しかしそれは日本の被害者の不幸をも物語っている。オウム真理教による一連のサリン事件も過度に被害者に自助的努力を委ねた背景のもとに惹起され、その結果、テロによる死傷者も含めて、多数の被害者を生じさせた。

 このように国の無策が統一教会をはじめ現在も後を絶たない日本のカルト被害の原因となっている。なぜ事件がおきたのか、どうすれば今後二度と事件をおこさないですむのかという問いに対し、日本としての答えが未だにない状態にある。福島原発事故においては、政府事故調も国会事故調も設置され報告書が作成されたのに際立つ違いがここにある。

さらに抜本的な対策を

 ところで統一教会の場合、信者は合同結婚式(統一教会では「祝福」と言われる)の参加で原罪がなくなるという教えがあり、その原罪がなくなった両親から生まれた子どもは「生まれながらにして原罪がない」という特別な意味が付与される。そのため「祝福二世」は、原罪のない子ども同士である祝福二世間でしか合同結婚式に参加できないという決まりがあり、より厳しく恋愛の自由や婚姻の自由が制限される。

 このように統一教会では宗教二世の中にも序列があり、「信仰二世、祝福一世」「信仰二世、祝福二世」の区別をつける。この序列に起因し、祝福家庭間での祝福二世の子どもの融通、すなわち子どもの福祉を考えない養子制度の濫用が生じた。理不尽かつ人権侵害性が顕著なこの慣行も行政は放置してきた。

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source : 文藝春秋 2023年2月号

genre : ニュース 社会