誇大妄想狂と思われる人物は、自分がそうあって欲しいという未実現の世界と現実とが区別出来なくなる。孫正義さんの躓き始めとなったウィーという不動産転貸会社が華やかなりし頃、アダム・ニューマンという創業者と孫さんが「二人揃って世界初の『1兆ドル長者』になろう」と話していると報道された。私はその強欲に呆れるとともに、二人は誇大妄想狂だと確信した。当時のウィーは創業以来1ドルたりとも稼いだことがない会社だったからだ。
ソフトバンクグループの2022年4-6月期の3兆円を超える赤字決算発表時に孫さんは「安心して眠れる」と豪語したが、その根拠は6月末時点で保有株式の価値約22兆円に対し、親会社単体の有利子負債が3兆円強に過ぎず「十分すぎる時価純資産がある」からだった。子会社を含めると連結純有利子負債は約18兆円に上るが、「十分な健全性を維持している」と胸を張った。だが、これは孫さん一人の妄想で格付機関が与える格付けは「ジャンク」だ。
11月にフィナンシャル・タイムズ紙が独自の取材結果として、孫さんが傘下のファンドに個人で出資した資金は、実は孫さんが会社からの借用書にサインしただけで、会社が代わって払いこみ、約50億ドルが未払いになっていると報道した。自分が支配する会社からの借金とはいえ、会社にもファンドにも他の株主・出資者が居るので、この取引は背任、詐欺という犯罪の匂いが漂う。
11月にはまた仮想通貨交換所のFTXが破綻し、出資者の一人だった孫さんは1億ドルを償却した。この会社はサム・バンクマン・フリードという30歳の若者が創業した会社だが、破産申請後入った管財人は「かつて見たことが無い乱脈経営」だと発表した。出資者は全員全額償却。100万人を超える顧客も大損した。仮想通貨事業とは、あたかも誰もが如何なる信用の裏付けもなく「発券銀行」になるという事業だ。主な使途は投機とマネーロンダリング。こんな通貨が永続して存在しうると考えること自体「誇大妄想」そのものだ。
さて、孫さんには時価総額22兆円もの価値があるように見えるらしい傘下企業だが、アメリカのウィー、インドネシアのGoTo、韓国のクーパンなど公開しても赤字体質は変わらない。ゆえに今後の公募増資は絶望的で、私はその価値は限りなくゼロに近く、今後維持するために必要な手当てを勘案すれば、おそらくマイナスになるだろうと推察する。
証券取引所で売買される「一般的な黒字企業の株価」は、通常「1株当たりの利益の15倍」が古今東西変わらぬ目安だ。1年働いて1000円の利益を産む会社の株価は1万5000円となる。これ以上高ければ売られ、安ければ買われる。ならば、ウィーやGoToなど創業以来赤字の会社の株価は幾らなのだろうか。基本的に「価値は無い」。価値の無い会社を幾ら束ねても新たな価値は産まれない。孫さんはやがて自分よりも高値をつける人物が出るという妄想をもって買い集め、いま始末に困っている。
いつ潰れても驚かない
金利急騰、金融引き締めが引き金となり、世界中の株式公開市場が閉まっている。テック業界は11月に入って大規模な人員整理に入った。孫さんが大きな期待をかけた英アームの公開は当面不可能になった。
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