長年ヘッドハンターとして働く中で、一つの恐れを抱くようになった。「プロ経営者」や「コンサル」によって日本企業が崩壊するのでは、という危惧だ。「ヘッドハンターが言うのか?」という声が聞こえてきそうだが、この職業だからこそ抱く率直な本音である。
具体例として、駆け出しの頃の失敗談を挙げよう。ある外資系メーカー日本法人から、社長の後継者を見つけてほしいという依頼を受けた。当時の社長が米国本社に戻るのに伴い、新社長を外部から招くことになったそうだ。
外資系とはいえ社員はトップ含め9割が日本人、社風も極めて日本的な企業である。そこで私が注目したのは、同業他社で社長候補の一人と言われつつ派閥争いに敗れてしまったというKさん。早速アプローチすると、明るく豪快で話も上手く、魅力的な人物に映った。惚れ込んだ私は、窓口役のM専務と社長、Kさんの3人を引き合わせ、彼らは予想通り意気投合。Kさんの就任が決定した。ところが3ヶ月後、私の元にM専務からのSOSが届く。Kさんは社長就任後しばらくすると突然「使えない社員には出て行ってもらう」と長年働いてきた社員を次々とクビにしては自分の前職の部下たちを招き入れ、M専務まで追い出されそうになっているというのだ。
慌ててKさんと面会しようと会社に駆けつけたものの、門前払い。M専務も追い出されてしまい、その会社は最終的に、好調だった業績も急降下してボロボロになった。自身の鑑識眼の未熟さを痛感した、今でも夢に見るくらい悔しい案件である。
しかし、この案件の裏に潜んでいるのは私の人を見る目の問題だけではない。文化や製品、社員など、その企業が持つ性質を知らず、愛着を持てない人物がトップになること自体、崩壊へと向かう危険性を孕んでいるのだ。Kさんの「暴挙」も、転職先の企業に体質が合わないから自分の慣れ親しんだ環境に変えようとしただけで、当人からすれば当然の行為だったのかもしれない。一方、内部の社員たちは、自分達が長年育んできた豊かな土壌を、土足で踏み荒らされたように感じるはず。「プロ経営者」も人間、冷徹な訳ではない。それでも「心」に配慮せず、次々と社員や社風を切り捨てていけるのは、そこに愛着がないからではあるまいか。
「OSの不一致」による崩壊
私は「社風に合わない/愛着が持てない」状態を「OSの不一致」と呼んでいる。OSが一致しなければ質を問わずアプリが機能しないように、人材もOSが一致しなければ機能しない。とくに経営者クラスになると、機能しないどころかマイナスに傾いてしまう。時間をかけて企業風土に合う人材を探せば、先述のような失敗もないだろうと考え、プロ経営者を発掘する事業を立ち上げたこともあるが、やはり「プロ経営者」という職種は成立しないという結論に達した。
ある候補者の「内部環境に精通し、現場を知らないことには、本当の意味でグローバルでは戦えないと思う」という発言が忘れられない。経営者のプロになるよりもまず、その会社のプロになることでしか成し遂げられないものがあるのだ。
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