金融庁がNISA(少額投資非課税制度)普及の説明によく使う数字として、2015年までの20年間で家計金融資産の額は米国で3.1倍、英国で2.3倍に増えているが、わが国は1.5倍弱に過ぎない、というものがある。確かに、銀行預金ばかりでは資産は増えにくい。
では、日本人はお金儲けが嫌いなのか。「私は投資は嫌いだ」という人は少なくないが、その心理は「あの葡萄は酸っぱい」と言い放つイソップ童話の狐の心境に近い。投資で儲けた経験が乏しく、投資に手が伸びない一方で、他人が儲けることは面白くなく、「投資はギャンブルだ」などと言う。
だが、われわれは、「安心」するためにお金に大いに執着している。2019年に大炎上した「老後2000万円問題」を思い起こそう。個人の面倒見を家庭や会社に押しつける日本の仕組みでは、その負担の重さを嫌って、家庭では少子化と非婚化が進み、企業は非正規労働者を雇う悪循環が働いている。
何らかの改善手段はないものか。
経済学者のトマ・ピケティが指摘したように「資本」の収益率は経済成長率やこれと連動しやすい賃金上昇率よりも高い傾向がある。株式のような資本は、その期待収益率が「金利+リスク・プレミアム(リスク負担に対する追加的な収益率)」となるように市場で価格付けされる仕組みだから、こうなる。資本から所得を得ている人の富は、働いて稼ぐだけの人の富よりも成長しやすいから、「格差」は拡大する。
海外ではイーロン・マスク氏やジェフ・ベゾス氏、国内では孫正義氏や柳井正氏らは保有株式の価値で大富豪になった。彼らほどではなくても、10億円単位以上のお金持ちの多くは株式を公開したベンチャー企業の創業メンバーだし、ベンチャー初期に参加した「普通の社員」でもストック・オプションで数億円規模のお金を作った人は少なくない。
今日の「大金持ち」への道は、株式での報酬や株式のリターンによる「資本家の所得」の先にある。資本には多くの労働から利益を集める効果があり、株価には将来の期待を先取りする時間短縮効果がある。
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source : 文藝春秋 2023年2月号