★抜擢相次ぐ秋葉人事
7月21日発令の外務省幹部人事。秋葉剛男外務事務次官(昭和57年、外務省入省)が茂木敏充外相と2人だけで構想したものだが、事実上の「秋葉人事」だった。
その最たるものが、駐米公使だった市川恵一氏(平成元年)を2階級特進の北米局長に起用したこと。能力は折り紙付きとされるが、「中2階(各局審議官)」を経ずしての主要局長抜擢は異例だ。今夏人事では、経産省でも平成元年組から2人の局長が誕生したが、同省は外務、財務両省に比べて局長昇進の年次が若い。それだけに、市川氏の北米局長就任は驚きをもって受け止められている。
次に指摘すべきは、首相秘書官から外務審議官(経済)に抜擢された鈴木浩氏(昭和60年)。留任した森健良外務審議官(政務・58年)との並びからすれば、年次が近い山上信吾前経済局長(59年)の就任が妥当と見られていたが、秋葉氏は今回、敢えて鈴木氏を登用した(山上氏は駐豪大使に転出予定)。
これらについて、第2次安倍政権発足以来、鈴木氏が首相秘書官を長く務めてきた点、市川氏も菅義偉官房長官の秘書官だった点から「官邸を忖度した人事」という見方があるのも事実。人事原案に官邸サイドからの注文も入らなかったが、秋葉氏はあくまで能力重視で選んだという。
国家安全保障局担当の内閣審議官に転出していた船越健裕氏(63年)の首相秘書官起用も注目だ。本人も青天の霹靂だったというが、これは、安倍晋三首相の総裁任期を迎える来年9月を念頭に行った人事。イージス・アショアの配備停止を受け、首相マターとして急浮上した「敵基地攻撃能力」を巡る問題もあり、安全保障政策に精通した船越氏を1年間だけ官邸に置く。その上で来年秋には、本省のアジア大洋州局長や官房長に起用する算段だろう。
霞が関を驚かせた「秋葉人事」。新たな布陣で山積の外交課題を前進させられるか。
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source : 文藝春秋 2020年9月号