月刊「文藝春秋」の名物政治コラム「赤坂太郎」。見るに堪えないレームダック化――その陰で、「反安倍」の急先鋒が豹変した
疲れた表情を見せながらも、首相の安倍晋三は笑いを誘うことは忘れなかった。「今は韓信の股くぐりの時期ですよ」。2月中旬、親しいベテラン議員にこう心境を語った。
韓信の股くぐり。漢の武将だった韓信が青年時代、往来で会った若者から「お前はいつも剣を持っているが、本当は臆病者だ。その剣で俺を刺せ。できないならば、俺の股をくぐれ」と脅され、股をくぐり、周囲から笑いものにされた故事だ。韓信は「恥は一時、志は一生。ここで剣を抜いてもなんの得もない」と判断したわけだが、安倍が韓信の故事になぞらえたのは、「桜を見る会」をめぐる国会質疑のことであることは明らかだった。
桜を見る会は首相としての安倍が主催、その前日に東京都内のホテルで開かれた前夜祭は政治家としての安倍の後援会が主催したもので、いずれも問題化した。事務次官経験者が「脱法的行為による公私混同、それを打ち消すための文書改ざんに虚偽答弁。そして、官僚への責任押し付け……。安倍政権の悪いところが全て表出している」と語る桜問題は、安倍を直撃。官房長官の菅義偉が「ご指摘は当たらない」などと木で鼻をくくった対応をしても一向に鎮火しない。安倍は1月下旬から2月初旬、平日に9日間連続、衆参の予算委員会に出席。その後も3月いっぱいは週1回、テレビ中継される予算委で野党に攻め立てられる醜態をさらすことになる。
だが、安倍は韓信にはほど遠い。「鯛は頭から腐る」と野党議員から揶揄され、閣僚席から「意味のない質問だよ」とヤジを飛ばした。国権の最高機関たる国会を軽視するヤジに、安倍と距離を置くベテラン議員は嘆息する。「一国のトップなのに何も分かっていない。空しさしかない」。
1月20日に始まった通常国会。桜問題の追及で野党が牙を研ぐ中、新型コロナウイルスによる肺炎問題が発生。安倍は危機に強いリーダーを演出し、自民党内からは「総理は本当に運がいい。桜で追及されているところに肺炎が起こった」(若手議員)との声が上がっていた。
だが、時が経つにつれ、コロナ問題は急拡大。クルーズ船内で感染が拡大し、海外メディアから「武漢に次ぐ第二の感染中心地」と非難を浴びた。国内では親衛隊のような存在だった作家の百田尚樹が「安倍総理はこれまでいいこともたくさんやってきた。しかし、新型肺炎の対応で、それらの功績はすべて吹き飛んだ」と厳しく批判。桜問題の盾だったはずのコロナ問題への対応が、安倍への刃に変わってしまい、内閣支持率は急落した。
「官邸の守護神」とも呼ばれる東京高検検事長、黒川弘務の定年延長問題でも、政権運営のずさんさが露呈した。延長の根拠を国家公務員法の規定としたが、過去の政府答弁との矛盾を野党に指摘されると、法解釈の変更をいきなり表明したり、官僚に答弁を撤回させたり二転三転。またも場当たり的対応を上塗りする悪循環で、桜問題で表出した悪弊がさらに進んでいる。
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source : 文藝春秋 2020年4月号