最近、「超大国インド」という言葉をタイトルに掲げた本や記事をよく見かける。
超大国とは、経済力、軍事力、文化的影響力などの幅広い領域を通じて、他の国々を圧倒するような存在を指す。そのため、第二次世界大戦の前後から現在まで、アメリカが超大国の地位に君臨し続けてきたという見方は広く受け入れられている。一方、台頭著しい中国が超大国かどうかについては、専門家の間でも見解が分かれる。いずれにしても、中国と比較して全般的な国力で劣るインドを超大国と呼ぶのは、現時点では明らかに無理がある。
実は、「超大国インド」をタイトルに掲げる本や記事でも、インドは「現在の超大国」ではなく、「未来の超大国」と位置付けられている場合が多い。しかし、インドを取り巻く現状を踏まえれば、超大国になることが約束されているかのような前提にも、やはり少なからず疑問が残る。経済に焦点を絞って、この点を論じてみよう。
揺らぐ政府統計への信頼
2023年は、インドの存在感が一気に高まる年となった。一月に入ると、「グローバルサウス」という言葉が日本のメディアで急速に使われるようになり、その「盟主」として、インドが盛んに取り上げられた。9月には、主要20ヵ国・地域(G20)サミットがニューデリーで大々的に催され、世界の耳目を集めた。
そして、インドへの一般の関心を高めるうえで決定的だったのが、4月に国連機関から、インドが中国を上回り人口世界一になるという推計結果が発表されたことだろう。これをきっかけに、マーケットや生産拠点としてのインドの重要性が、これまで以上に喧伝されるようになった。また、日本にとって安全保障上の脅威である中国が首位から陥落し、「同志国」とされるインドが取って代わったことも、このニュースが大きく取り上げられる要因となったと考えられる。
ところが、人口世界一になったはずのインドでは、2011年を最後に国勢調査が行われておらず、正確な人口を知ることはできない。2021年に予定されていた国勢調査が新型コロナを理由に延期となったまま、いまだに実施されていないのである。この事実は、政策の基礎となるはずの客観的データを政府がいかに軽視しているかを物語っている。
こうした傾向は、2014年に成立したモディ政権のもとで次第に強まってきた。その結果、前出の国勢調査のように、それまで定期的に実施されていた統計調査が行われなくなったり、実施済みの統計調査の結果が一向に公表されなかったりするなど、政府統計をめぐる疑惑が相次ぐようになった。
政府がデータの収集と公開に後ろ向きの姿勢をみせるようになったのと並行して、政府統計への信頼が揺らぎ、インドの国内総生産(GDP)にも疑問の声が上がるようになった。例えば、モディ政権で首席経済顧問を務めた経済学者は、政府公表の実質GDP成長率は実際よりも2.5ポイントほど過大であるとの分析を2019年に発表した。同様に、雇用や家計消費支出に関する政府統計にも、多くの専門家が懸念を表明している。
このように、政府統計の不足と信頼性の低下によって、インドの現状を把握することが困難になっている。インドが超大国になるとの見通しは、急速な経済成長が続いていることが重要な根拠となっているが、実はその根拠そのものに疑いの目が向けられているのである。
インド経済が抱える課題
インド経済が政府の発表のとおり、7~8%台で成長しているとしても、将来にわたって高い成長率を維持し、超大国の地位を占めるようになるには、解決すべき課題が山積している。
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