辻原登「卍どもえ」

文藝春秋BOOK倶楽部

角田 光代 作家
エンタメ 読書

谷崎の「卍」を超える奇っ怪さ

 冒頭、デザイン事務所長であるアート・ディレクター瓜生甫(うりゆうはじめ)と妻ちづるの、充実したハイクラスな生活が描かれるので、彼らの、いっけんなめらかで、そのじつ何か滞っている関係が小説の軸なのかと思うが、そうではなく、縦横無尽に小説は繁殖していく。

 ちづるはネイリストの女性と肉体関係を持ち、瓜生甫は英文学講座で会った女性とやはり肉体関係を持つが、逆に彼女から脅されて大金を払う羽目になる。第2章では、彼ら夫妻とつきあいのある、あらたな夫婦が登場する。フィリピンで日本人向けの英語学校を経営する中子脩と、近畿日本ツーリストのプランナー毬子である。彼らも瓜生夫妻同様に子はなく、裕福な暮らしをしている。やはり複雑な事情を持つ中子夫妻だが、毬子はちづるに誘われて女性同士の性愛に足を踏み入れ、中子もまた、フィリピンの上院議員の娘と関係を持つ。

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source : 文藝春秋 2020年5月号

genre : エンタメ 読書