日本はアメリカ型民主主義から脱却せよ
先崎 ウクライナ戦争や中国の台頭は、いまの世界に「このままのシステムでやっていけるのか」という根源的な問いを突き付けています。プーチンの侵略は欧米中心の国際秩序への明らかな反抗ですし、インフレの加速で資本主義経済は世界的に低迷している。民主主義の優等生で、資本主義のトップランナーであるアメリカでも行き詰まりは顕著です。当然、急成長を続ける中国の脅威にさらされた日本にとっても、今の状況は他人事ではありません。
今こそ少し立ち止まって、日本がよって立つべき理念や、目指すべき国家像をみつめ直すことが必要ではないでしょうか。そうしてはじめて、日本が抱える真の課題と解決策が見えてくるはずです。
東 1年前にウクライナ戦争が始まって以降、「権威主義対民主主義」という言葉が盛んに語られるようになりましたね。野蛮な中国やロシアに対して、欧米を中心とする自由民主主義の国々が「正義」の秩序を回復させるために戦う。けれども、この構図は時代の流れに逆行しているように思います。
1990年代、アメリカの政治学者フランシス・フクヤマは、著書『歴史の終わり』で、アメリカ型の自由民主主義が政治体制の究極形態であって、それが世界中に行きわたることで世界は安定する、と主張しました。ところが、同書の出版から30年が経った今、「そうはうまくいかない」ということがハッキリしてきた。「やっぱり、世界は色んな価値観を認めて多極化するしかないだろう」というわけです。
先崎 最近は「グローバルサウス」という言葉をよく聞くようになりました。ブラジルやインドのような国は、経済的自信を背景に、欧米に追従するのではなく、自分たちのやり方で成長を続けています。
東 それなのに、前述の「フクヤマ史観」が一部の業界で亡霊のように再来している。「多極化なんて言っているとヤバイ奴が出てくるから、自由民主主義で世界を覆い尽くすしかない」と。しかし、これこそ現実的とは思えない。
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source : 文藝春秋 2023年4月号