私は幼少の頃から、やんちゃな一面と、緊張すると胸がドキドキしてしまう神経質な一面とがありました。そのせいか、「心」について漠然とした関心があったのです。
高校時代になると、こうした両面的な性格は少しコントロールできるようになりました。生徒会長を任された経験も重なって、将来は実社会で何かしら貢献できる仕事に就きたいという思いを強めたものです。
そんな高校3年の夏、大学受験が1年遅れることを承知の上でAFSという交換留学制度に応募してアメリカに留学する機会を得ます。アメリカでの1年は見るもの、聞くものすべて目新しく、その印象は、今でもカラー写真のように鮮やかに記憶に残っています。アフリカ、ヨーロッパなど全世界の留学生との交流もあって、将来は外交官になる夢を抱くようになりました。
ところが帰国してみると日本では学園紛争の真っ只中で希望する大学の入学試験が中止となり、都内の他大学の法学部に入学しました。当時、外交官といえば、権力の手先であって人民の敵とみなす風潮もあって、青春の彷徨が始まったのです。
私の悩みを察してか、義理の兄が送ってくれたのが『無私の精神』(文藝春秋)。当時、著者の小林秀雄のことは全く知りませんでした。難解な文章に戸惑ったものですが、何度も読み返して引いた鉛筆の線がいまも本のページに残っています。
「並外れた意識家でありながら、果敢な実行家でもある様な人、実行とは意識を殺す事である事を、はっきり知った実行家、そういう人は、まことに稀だし、一番魅力ある実行家と思える」
「有能な実行家は、いつも自己主張より物の動きの方を尊重しているものだ。(略)物の動きに順じて自己を日に新たにするとは一種の無私である」
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source : 文藝春秋 2023年5月号