『道をひらく』を何百回も

安治川 親方 元関脇・安美錦
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 松下幸之助さんのロングセラー『道をひらく』(PHP研究所)を初めて買ったのは高校生の時でした。青森県の田舎の高校に通っていて、駅前には本屋しかなかったんです。なんとなく手に取って立ち読みしたのが最初の出会いで、以来、何十冊買ったかわからないくらい。気が付いたら失くなって、気が付いたら傍にあるという本なんですよ。力士時代には、地方場所や巡業先で同じものを買って、移動のバスの中で読んだりもしていました。今も自宅のトイレなどにポンと置いてあり、目をつぶって本をパッと開く。見開きの短いコラムで、たとえば「志を立てよう」という題名のページでは、「年齢を恥ずかしがることはない」などと書かれているんです。若くて元気な時は、「よし! 横綱を倒すぞ」と思わされたり、ケガをして十両に番付を下げた時には、「幕内復帰するぞ!」という気持ちになる。自分が漠然と思っていることに、その時々で寄り添ってくれるというのでしょうか。読みやすい文章で、自分の背中を後押ししてくれる。何百回と読んでも新鮮なんですね。2022年末に独立し、安治川部屋を興して師匠となりましたが、弟子たちにも手に取ってもらいたい。相撲部屋のトイレにも置いておきましょうか(笑)。

安治川親方(元関脇・安美錦)

 私は相撲しか知らなく、狭い世界で生きて来たもので、何かを成し遂げた人——特に企業の経営者の方などから得るものが多くあります。現役時代の終盤に、100円ショップ「ダイソー」創業者の矢野博丈会長にお会いして、その著書を読んでみたり、イトーヨーカ堂の亀井淳元社長にも異業種交流会のような席でお会いしました。亀井元社長と知己となった当時は、まだ引退前で、相撲部屋を持つかは未定だったんです。40歳と引退の年齢が遅かったので、師匠として部屋を持っても定年までの時間は短い。相撲部屋もひとつの経営ですから、「私にできるのか?」と考えました。でも経営者の方々と交流しているうちに、部屋を一からやってみたいと思うようになるんです。亀井元社長は、普段は面白い方ですけれど、時折、経営者目線になる時がある。経営者は利益を追求しなければいけないイメージがありますが、「結局は“人”なんだよ」とおっしゃる。私は新米師匠ですし、悩みを素直に相談できる“人生の師匠”のような方でもありますね。亀井元社長の情熱や理念がわかる『イトーヨーカドー物語』(高梨みどり作・少年画報社)はストーリー漫画仕立てで読みやすく、誰もが手に取りやすい一冊です。

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source : 文藝春秋 2023年5月号

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