「日本はだめになります」真夜中の第一報に危機感を抱いた
中国の大戦略を端的に表現すれば、米国を凌駕して世界秩序の頂点に立つことといえるだろう。豪州の作家・批評家、クライブ・ハミルトンは、著書『サイレント・インベージョン(Silent Invasion)』の邦訳版で、中国の意図するところを《アメリカの持つ同盟関係の解体である》と喝破している。我が国を始めとする同盟国を米国から引き剥がすことにより、米国の世界戦略における力の源泉たる同盟そのものを弱体化しようとしているとのハミルトンの指摘は、蓋(けだ)し慧眼である。
ハミルトンは、我が国を弱体化させるための「侵略」の実態についても概略以下のように述べている。
《数千人にものぼる中国共産党のエージェントが活動し、スパイ活動や影響工作、そして統一戦線活動に従事。日本の政府機関の独立性を損ね、北京が地域を支配するために行っている工作に対抗する日本の力を弱めようとしている》
実際、警察庁外事情報部長の任にあった2010年、私は、米国主導の世界秩序に挑戦する中国が、我が国の対外政策に介入する事態に直面した。中国は当時、我が国の「環太平洋パートナーシップ」(TPP, Trans-Pacific Partnership)への参加阻止を画策していたのだ。
中国が農水省高官に接触
その情報に接したのは、2010年10月下旬、警察庁外事情報部長として米国出張中のことだった。米側カウンターパートとのミーティングは連日、機微な内容に及び、頗(すこぶ)る消耗する。ポトマック川を見下ろすヴァージニア州ロズリンに所在する安宿、ホリデイインの自室に戻ると、時差解消の誘眠剤を飲んで朝まで熟睡する毎日だった。3泊目、けたたましく鳴る旧式の電話のベルで叩き起こされた。反射的に時計を見ると、まだ真夜中だ。
「北村さん、岡畑です。大変なことになっています」
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