特定秘密保護法に職を賭した

外事警察秘録 最終回

北村 滋 前国家安全保障局長
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「世の中を暗くしないでおくれ」母からも小言を言われる始末だった

 1枚の写真がある。そこには田中一穂財務省主税局長(後に財務事務次官、現日本政策金融公庫代表取締役総裁)のほか、今井尚哉政務担当総理秘書官(現内閣官房参与)、そして内閣情報官の私が、安倍晋三内閣総理大臣(当時)と共に収まっている。

「水簾」での一コマ(著者提供)

 2013年7月22日、ザ・キャピトルホテル東急の日本料理店「水簾」で撮ったものだ。第23回参議院議員通常選挙の翌日、安倍総理は午後7時過ぎから永田町の日本料理店で報道各社の政治部長経験者らと2時間近く懇談し、午後9時ごろに駆けつけてくれた。

 外務省の林肇内閣官房内閣審議官(現駐英国特命全権大使)を加えた4人――いずれも第一次安倍政権を秘書官として支えた仲間だ――は、野にある時も機会あるごとに安倍総理を囲んでいたが、この席は総理が我々を労(ねぎら)うために設けてくれた。

 その前日、7月21日に実施された参議院議員選挙で、自由民主党は31議席増の65議席を獲得した。参議院での自民単独議席は115となり、自公では、非改選と合わせて過半数を上回る135議席となった。衆参両院で多数派が異なる不正常な“ねじれ国会”はここに解消された。

 この選挙の勝利は、第一次安倍政権退陣の引き金となった2007年の参院選敗北から続く雌伏の6年間に決別し、憲政史上最長の政権へと向かう正に反転攻勢の狼煙(のろし)となった。

「北村、静かにしていろよ」

 安倍総理と我々は、屈辱にまみれた敗北のリベンジを果たした高揚感の中にいた。その席で、私には具申すべきことがあった。「特定秘密の保護に関する法律」(特定秘密保護法)の制定である。この法律をめぐって、第二次安倍内閣は、後に「人間の鎖」が国会周辺に出現し、内閣支持率が10ポイントも下落する事態に直面する。

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source : 文藝春秋 2023年8月号

genre : ニュース 社会 政治 国際