「わからないのが当たり前、わかったら喜べばいい」異才2人が語る情報化社会との付き合い方
成田 養老さんが最近出版されたエッセイ『ものがわかるということ』を読んでみました。解剖や自然の世界を通して養老さんが培養されてきたものの見方や考え方が煮詰めすぎずにサラッと素描されていて、異様に読みやすかったです。
ただ、表面的に読みやすいからわかった気になってるだけで、実は何もわかっていないんじゃないか……そんな気持ちにさせられて、「わかる」と「わからない」が表裏一体になっています。
養老 そうですか。
成田 実はその感覚は、自分にとっては身近なものです。僕の研究では社会や経済、教育などを扱うのですが、バシッと「わかった」感覚になることはないからです。人間や社会が関わる現象のほとんどは、人間がわかったり、理解したり、ましてや法則化することはまず不可能だというところから出発して、諦めつつ研究を続けています。
「わかる」という感覚は、数学や哲学みたいに概念や記号だけで完結できる領域、一部の自然科学みたいにバシッと事実や法則性を確定できる領域のようなごく一部でだけ成立しえる“フィクション的な感覚”なのではないでしょうか。
養老 本の前書きにも書きましたが、若い頃は、勉強すれば何でも「わかる」と思っていました。でも、80代の半ばを超えて人生を振り返ってみると、わかろうわかろうとしながら、結局はわからなかったという結論に至った。それで、今回の本が出来上がったわけです。
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source : 文藝春秋 2023年8月号