「なんでも吸収したい」手書きの便箋には切実な気持ちが綴られていた
毎朝、スポーツ庁に出勤する前に吉田選手が出場するレッドソックスの試合を観るのが日課になっています。先日、164キロのデッドボールを右脚に受けた時はもう、抗議したいと思いました(笑)。膝下のところで、相当痛かったはずです。
初めて吉田選手に会ったのは、彼がまだプロ1年目で、シーズンを終えたばかりの2016年秋。もう7年前になります。それからの付き合いですから、とても他人とは思えません。「今日はどんな風にバットを振っているかな」「どんな表情でプレーしているかな」と気になる。逆境を見事に乗り越えた彼の活躍に、僕もいまは完全なファン目線で、みなさんと同じように感動しています。
WBCで日本代表の4番を務め、14年ぶり世界一の立役者となった吉田正尚選手(30)。全7試合に先発し、打率は4割超。勝負強い打撃で大会歴代最多となる13打点をマークした。今季、オリックスから米ボストン・レッドソックスに移籍し、メジャー1年目にして首位打者争いにも加わっている。
そんな吉田が「先生のような存在」と慕うのが、ハンマー投げの五輪金メダリストで日本選手権20連覇を達成した、スポーツ庁長官の室伏広治氏(48)だ。
173センチの小柄な身体を目一杯使う吉田のスイングは特に腰椎への負荷が大きい。慢性的な腰痛に苦しみ、現役続行も危ぶまれた時に頼ったのが室伏氏だった。
一通の手紙が届いたのは、16年11月のことでした。オリックス球団の封筒を開けると、1枚の便箋に、手書きの文字がびっしり並んでいました。それが、吉田選手からの手紙でした。
普段書かない手紙を一生懸命書いてくれたんだなと一目で分かる、不器用ながら丁寧な内容で、熱意が伝わってきました。
手紙には、1年目から故障続きで力を出し切れずに悩んでいることが綴られていて、具体的に「トレーニング方法を一度見てもらいたい」「少しでも自分の野球に生かしたい」「なんでも吸収したい」という切実な気持ちが書かれていました。
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source : 文藝春秋 2023年9月号