志賀直哉|若草鍋 奈良「料理旅館 江戸三」

作家が愛した名店 第7回

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炭火を使って土鍋で煮込む。昭和天皇が奈良でサンフランシスコ講和条約の批准書に署名した際にも、若草鍋が献上された(11,000円〜) 撮影=志水隆

志賀直哉 ©文藝春秋

 1925年から13年間、奈良に住んだ志賀直哉。邸宅の土地を探したのは「江戸三」の二代目・大和平太郎だ。『暗夜行路』を執筆中だった志賀の元には作家や画家が集い、小林秀雄も江戸三を訪れた。

「若い文人さんを連れてきた志賀先生から『余り物で良いから何か食べさせてやって』と頼まれて作り始めました。当初は会席料理の端材を使った質素なものでした」(四代目の大和隆社長)

 ほうれん草を土台に、伊勢海老や鯛、鱧などを盛り付けた姿を、新緑の若草山に例えて若草鍋と命名したのが志賀である。16種類の具材から染みだした出汁の香りが食欲をそそり、シメの雑炊まで一気に平らげた。

〈食ひものはうまい物のない所だ〉。かつて随筆「奈良」にそう綴った志賀だが、若草鍋だけは例外だったようだ。

©文藝春秋

創業は1907年。奈良公園の中に10を超す数寄屋風の建物が点在し、鹿を間近に見ながら食事と宿泊ができる。 ©文藝春秋

(住所)奈良市高畑町1167番地 ☎0742-26-2662
若草鍋が提供されるのは毎年10月1日から3月31日まで

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source : 文藝春秋 2023年12月号

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