江戸川乱歩 これが、あの人間椅子か

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日本における冒険・推理小説の草分け的存在、江戸川乱歩(1894〜1965)。「少年探偵団」シリーズは令和の子供たちにも読み継がれている。その乱歩に認められてデビューした筒井康隆氏(89)が語る。

 乱歩さんは、僕にとって作家としての“生みの親”。出会ったのは、昭和35(1960)年、僕が26歳のときです。

 この年、弟3人と一緒に「NULL」というSF雑誌を作りました。筆者は家族だけの同人誌です。そこに、処女作となる短篇「お助け」を載せたところ、この作品が乱歩さんの目に留まった。まもなく探偵小説誌「宝石」に掲載されて、めでたく作家デビューとなりました。

 乱歩さんは僕にとって「神さま」みたいな存在でしたから、同人誌が完成したとき、真っ先に送りました。その乱歩さん本人から速達で手紙が届いた。嬉しかったですね。

江戸川乱歩 ©文藝春秋

 僕は当時、会社勤めをしていたので、手紙が届いたことは弟からの電話で知りました。嬉しくていてもたってもいられず、近くの喫茶店に抜け出して幸福感を噛みしめながら1時間ほどボンヤリしたものです。

 覚えているのは、同人誌も手伝っていた父が、すぐお礼の手紙を書いたのですが、乱歩さん直筆の手紙まで封入して投函してしまったこと。父も興奮していたのでしょう。慌てて自転車を漕いで、郵便局に取り返しにいきました。

 乱歩さんにお目にかかったのは池袋のご自宅でした。その年の夏、「宝石」の編集長が連れていってくれました。通された応接室には、大きな背もたれの付いた、玉座のような椅子が一つだけありました。「これが、あの『人間椅子』か」と思いましたよ(笑)。大藪春彦はその椅子に座って先生を待つうちに、グウグウ寝てしまったそうです。

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source : 文藝春秋 2024年8月号

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