著名人が母親との思い出を回顧します。今回の語り手は、長井短さん(俳優・モデル・作家)です。
「もう今年やっちゃおう」母はそう言って、六歳の私に七五三の七。普段着の友達に囲まれて「なんで私だけ今年?」と思いながら振袖を着たことをよく覚えている。実際友達達にも「なんで早いの?」と聞かれた。「背高いから」と答えると、全く同じ身長の友達が「私来年なのに?」と言う。変なのと私も思った。母は時々こういうことをする。他の人には理解できないオリジナルのロジックで、常識をいとも簡単にぶち破る。多分、大それた理由はない。その証拠に、母は自分のヘンテコさに気づいていない。
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source : 文藝春秋 2024年12月号