科学と料理

奥薗 壽子 家庭料理研究家

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著名人が父親との思い出を回顧します。今回の語り手は、奥薗壽子さん(家庭料理研究家)です。

 私の父(科学者。大学で教鞭をとっていた)は、相当変わっていました。

 父の部屋には、アボカド(種から育てた)や、訳の分からない植物が所狭しと自由に育っていて、まるでジャングルのようでした。そこで父はカエルを飼っていて(放し飼い)、ある日そのカエルを食べに蛇がやって来たのを、大喜びしたことがありました(亡くなってから分かったのですが、実は蝙蝠までいました)。

奥薗壽子氏

 机の電気スタンドの光だけでイチゴに実をつけることができるかという実験をまじめにやっていたり、一本のミニトマトの苗から、どれだけのミニトマトが取れるかを実験して、毎年記録更新していました(おそらく二百とか三百とか、実をつけていたと思います)。父がやると、他の人が顔をしかめる事も、何が楽しいんだ? という事も、なんでも飛び切り面白い遊びに変わるのでした。

 父は料理はできません。なので料理を教えてもらった事はないのですが、科学の実験のような感じで、実際の食材を使って遊んでもらいました。

 例えば、ご飯を炊くとすると、当時はお釜でガスを使って炊くわけですが、お米のでんぷんが加熱によって柔らかくなって、ご飯に変わるというのを、最初は科学的に解説してくれるわけです。でも、科学的な論理を教えようとしたわけではなく、説明できない事が本当は面白いのだという事を教えてくれたのでした。なぜ米がご飯になると嬉しくなるのか、なぜ炊き立てのご飯を食べると幸せな気持ちになるのか、一緒に食べるとなぜ美味しいのか。そもそも美味しいって何だろう? 答えはありません。考えてもわかりません。けれど美味しさと面白さは、たしかにそこにあるように思えました。

 全ての事には原因と結果があります。けれど分かる事はほんの一部。なぜだろう? と考え、不思議に感じる事に意味があり、楽しさや喜びに繋がっています。

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source : 文藝春秋 2024年10月号

genre : ライフ ライフスタイル